MAN−ING

マニング―男進行形

Football galvanizer
Sadao Goto
(TOUCHDOWN PRO2011年5月号より転載)

急降下したパス評価係数
 天才QBペイトン・マニング(13年目)はピークを過ぎたのか。
 昨季プレーオフ1回戦で、コルツはジェッツに最終プレーで逆転負け、16対17でシーズンを終えた。レギュラーシーズンは中盤3連敗から4連勝して、なんとかAFC南地区優勝(10勝6敗)にしがみついた。チームとしては、2年前のスーパー大敗が分岐点となり、傾斜上部でこらえているイメージが強い。マニングのノーハドル戦術にも、限界の陰あり、そう昨秋中盤に書いた。
 しかし、オフに入って、マニングを仔細に観察すると、どっこいマニングに陰りはない。完璧なパッサーで、アクシデントがない限り、あと5〜6年はトップに君臨してもおかしくない。ではなぜ、前年より8ポイント急落、過去8年間で最低のパスーレーティング、91・9に終わったのだろう。

男マニング
 シーズンを決定したジェッツ戦での、彼にとっての最終シリーズ、敵陣37ヤードからの攻撃シリーズが、昨年度の彼を象徴していた。第1ダウンはRBジョセフ・アダイ(5年目)のランで僅か1ヤード。第2ダウン、左SEへ入ったブレア・ホワイト(1年目)のインサイドスクリーン、プレー選択は正しかったが、3ヤードに終わった。6ヤード残った第3ダウン、右SBに移ったホワイトへのアウトパス、これがコミュニケーション不足でドロップ、FGによる3点に終わって、その後の再逆転を許すことになる。
 シーズン直前に判明した、バックとラインの負傷多発によるラッシング能力の大幅低下が、マイナス・スパイラルの始まりだった。主力のアダイはゲームでスタート出来たのは半分に満たない僅か7試合、終盤にはご存じのようにUFLでプレーしていた老骨ドミニク・ローズ(当時31歳)を呼び戻すほどの人手不足になった。ラン・パスの(コルツなりの)均衡が崩れた結果、レシーバー陣に過剰負担がのしかかった。前年捕球数チーム2位のTEダラス・クラーク(8年目)が10月17日レッドスキンズ戦でダイビングキャッチを試み右手首骨折、4位のWRアースチン・コーリー(2年目)も12月19日ジャクソンビルズ戦で2度目の脳震盪で倒れ、2人共にシーズンを終えた。クラークは僅か6試合、コーリーも9試合出場に終わった。全16試合をスタートしたレシーバーは、エースのレジー・ウエイン(10年目)だけ。
 ランはエース不在、レシーブはエースだけ、守備は非力。その中で、勝利への鍵はすべてマニングの肩にぶら下がった。しかも、前にもご紹介したが、マニングの状況判断力は、前回のスーパーボウルで丸裸になっていた。それでも、勝つための全てが、マニングの右腕にかかる。
 その結果、コルツの攻撃はとんでもない片肺飛行に踏み切った。昨年度のラン対パスの回数比率が36対64、全プレーの64%がパス、つまりほとんどすべてをマニングに委ねたことになる。前09年度はラン43対パス57(NFL平均は44対56)だから、大胆不敵な方針変更。08年度は48対52、07年は46対54であるから、いかにも異常な数字である。
 重ねて書くが、スプレッド攻撃の4人レシーバーのうち、健在なのはウエイン1人だけ、残り3人のうち2人が中盤から復帰絶望の状態、それでも全面パス攻撃を仕掛けた。これで、チームをプレーオフ出場まで運び込んだマニングのパフォーマンスは、凄い、驚異である。(克明な事前分析を経て、ノーハドルの戦術選択、さらに守備パーソネルと味方パーソネルのマッチアップ、カバレッジとブリッツの判断…、プレスナップの最適選択に与えられる時間は数秒であろう。それを、オーディブルにしろビジブルにしろ、怒鳴り、ヘルを叩き、指さし、お尻を撫ぜて、全員へシグナルで送る。スナップを受けた後には、さらにサイトアジャストがある、オプションがある、チートするカバレッジがあり、ディレイドのブリッツが眼前に迫る。溜息をつく暇さえない。)

それでもキャリア最高
 レギュラーシーズンは乗り切れたが、プレーオフは全力の一発勝負。対戦相手はエースのウエインを、徹底ダブルカバーすればよい。第二、第三WRに脅威はない、経験もないし、スキルもない。前述の第2ダウンでのスクリーンはホワイトだった、コーリーだったら、あと4ヤードは前進出来た。いや、クラークがいれば、定番のシャロウクロスで第1ダウンまで獲得できただろう(10年度のタミー(3年目)の上達は認めるが)。第3ダウンのアウトパス、ホワイトがカバーマンとのレベレッジを読み切れず、低いパスに反応出来なかった。サイドラインに戻ったマニングは、顔をしかめてホワイトに厳しい言葉を投げた。直後のジェッツの攻撃で、同じようにFG射程距離に入る、QBサンチェスからバックショルダースローをWRエドワーズ(6年目)がクリーンキャッチして、18ヤード獲得してその差が明白となった。
 マニングはプレーオフ終了後に、シーズンを振り返って、負傷者に影響されたがその分若手の台頭もあり来年度はまた優勝を目指すと胸を張り、自身の実践に対しての一点の陰りも感じさせなかった。義を見てせざるは勇なきなり(こんな表現はマニングは絶対に知らないだろうが)、チームの危機に、危険を犯さない優等生タイプが、男を賭けて受けて立った。マニング―MANNING男真っ盛り。そんなシーズンだったのかもしれない。
 
 パッサー・レーティングは、91・9に終わったが、679回という(見え見えの)キャリア最多のパス回数にもかかわらず、450捕球、獲得距離4700ヤードはいずれもキャリア最多、66・3パーセントの成功率も、キャリア平均の64・9%を上回り、キャリア13年間で6番目の数字で、33TDは前年度と同数。マニングが依然として高原にいることを証明した。マニングは完璧パッサーの進行形ある。
 唯一物足りない実績として平均獲得7・0ヤードがある。13年間で、初年度に続く2番目に低い数字だが、全警戒をパスに合わせ待ち受ける相手に、アンダーニースへのパスが増えるのは、仕方ないだろう。
 クラークとコーリーは順調に回復、9月にはメトロドームに戻ってくる。マニングは、たぶん去年の不完全燃焼を糧に、よりエネルッギシュな姿勢で7月を迎えるに違いない。

米国四大プロスポーツの正念場
 現在係争のNFLオーナーによるロックアウト事件で、NFL選手サイドにいる野球、バスケットボール、アイスホッケーの労働組合は、5月21日、NFLはロックアウトを解くべきだと述べた。プロ野球のMLB、プロアイスホッケーのNHL、プロバスケットのNBAの選手組織は、「この事件は組合やそのメンバーにとって極めて重要な問題である」と第8米国地方裁判に意見書を提出した。これらの選手組織は「プロアスリートのキャリアは短い、そしてシーズンのいかなる部分が欠けても、補償されない個人的あるいは職業的な負傷の原因となる」と主張した。ロックアウトが続く限り選手は契約にサインもできず、練習もできない。それは選手に取り返しきかない損害を引き起こすと選手会は繰り返し主張している。
  上記の米国四大プロスポーツは、今年そろって労働協約改定のタイムリミットを迎えるが、その先陣を切るNFL選手会の交渉不調に、仲間がバックアップしたかたちである。
 100年に一度といわれる不況が続く中、米国プロスポーツ界が、いかなる判断をするか。不毛の意地の張り合いは見たくない。

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