男たち北帰行

第45回スーパーボウルレビュー

Football galvanizer
Sadao Goto
(TOUCHDOWN PRO2011年2月増刊号より転載)

第1部、南部ダラスに雪が降る


ダラスの雪
 零下8度Cの寒風、うっすらとテキサスの巨大平野を覆う白色、追い打ちをかけるようにちらつく雪、見たことがないダラスの中、車と部屋に閉じこもって、最初の4日間が過ぎた。
 繁栄を築いてきた名門対決、しかも初のスーパーボウルでの対戦、大不況の中でも圧倒的な関心を集めるNFLにとって、最高のカードが実現した2010年度NFLの王座決定戦だが、環境は微妙だった。10年に全世界を襲った異常気象が、ここ米国では巨大なブリザードとなって、各地に大雪を降らし、開催日の5日前には、生命線ともいえる主要国内航空路線の約30パーセントが運休となっていた。

 開催地のダラスは、公式大会表記は『北テキサス』開催だが、いまや米国フットボールの中核地である。フットボール発祥の地は東部だが、いわゆる国技としての立場を確立したのは70年代、広大な米国大陸南部にしっかりと根付いてからである。住民にとってフットボールとは、ロサンゼルスなどの西部では『気晴らし』、ニューヨークのある東部では『生活の一部』、そしてテキサス、フロリダ州など南部では『生活そのもの』と例えられている。そのテキサスの象徴が経済、金融の中枢機能が集中するダラスであり、そのフットボールの旗頭が、70年の誕生したNFLのダラス・カウボーイズである。アメリカズチームと名乗ることに誰もが異議を唱えられないほど人気と実力を持つカウボーイズだが、本拠地でスーパーボウルを開催するのは初めて、熱心にNFL発展をリードしてきたジェリー・ジョーンズ・オーナーが9万人収容の巨大ドーム・スタジアム、カウボーイズ・スタジアムを建設して、念願の開催にこぎつけた。フィールドから90フィートの高さに下げた世界最大の屋内ビデオスクリーン(左右160フィート、天地90フィート)は、ちょうどフィールドの20ヤードライン間の上方になる。フィールド上の天井が左右に開閉するなど、スタジアムには現代技術が結集された。気負いすぎたのか、優勝候補だったチームはプレーオフを逸したが、最大規模の開催を目指して、座席も増設、当日は史上最大の10万5千人が入場、さらにテレビスクリーンを設置したスタジアム隣接のプラザに5千人を集める。
 平均額面が1200ドルと発表された入場料収入と当日の物品販売だけで、200百万ドルの売上予想が出た。これまでのスーパーボウルでは、地元への経済効果は約300万ドルだったが、今回は地元のタスクフォース(実行委員会)が倍の600百万ドルと予想した。

 完璧な準備で開催を待つダラスを、異常気象が襲った。つるつるに氷結した高速道路に車の数は少なく、通行禁止が増えた。閑散としたダウンタウン、観光案内所ではダウンジャケットで着膨れした係員が足踏みをしていた。小中学は休校、スーパーマーケットの半数は開店を見合わせていた。大丈夫か、ダラス。

ポラマールとマシューズ
 スタッフ、チーム、選手にはまったく動揺を感じなかった。ダウンタウンのシェラトン・ダラスホテルにあるメディアセンターには、前回より数多い報道陣が詰めかけ、パトカー前後を護衛された数台に先導された報道専用の4台のバスが、スティーラーズの練習場であるTCU(テキサス・クリスチャン大)と、パッカーズの宿舎であるフォートワースのオムニホテル、2つの記者会見場を結んで走りまわっていた。急遽の厳寒対策として、スティーラースは近隣の高校の、パッカーズはSMU(サザンメソジスト大)の屋内競技場を、練習に利用した。
 メディアが群がった注目選手は、スティーラーズではQBベン・ロスリスバーガー、そしてこの週にリーグ最優秀守備選手が発表されたSトロイ・ポラマールだった。地方からメディアも多く、約1時間に、同じ質問が幾度となく繰り返されたが、選手たちは丁寧の同じ答えを繰り返していた。
 オフの女性に関する不祥事件で、序盤に4週間の出場停止となったロスリスバーガーには障りのない質問が続き、盛り上がりが欠けた。空気が和らいだのは、彼が恒例とするスーパー直前の攻撃ライン招待の食事会の話題ぐらい。フィールド上の自由奔放は評価出来るが、オフの勝手気ままは、さすがにアメリカでも受け入れにくいだろう。背番号7のレプリカジャージーの売上は、急減したままである。
 ポラマールはいつもの細いが爽やかな声で、穏やかに受賞を感謝した。決定的場面での大胆不敵なプレー、狙いすましたインターセプトには、この声の裏に隠された周到な準備と驚異的なトレーニングにあるに違いないと、根拠のない納得をしてしまう。スティーラーズ9年目の磯ありこトレーナーも、「自身で最高の身体ケアを行っている」とポラマールに関しては言葉すくなかった。今季は7インターセプト、つねに決定的な場面で出すのが凄い。SB史上最高のセフティの評価も出始めた。
  就任4年で2度目の出場、ヘッドコーチのマイク・トムリンは「すべてはレギュラーシーズンゲームと同じ。特別なスーパーボウル対策は全くしない」とぎょろ目で記者団を見回した。2年前の第43回で、カージナルス相手に奇跡的なプレーを連続させ逆転勝利した。まだ38歳、これからしばらくは俺の時代といった、強い自信を感じた。ウイリアム&メアリ大時代にはWRで、来日して全日本と対戦(アイビーボウル)した経験がある。コーチの基本理念は、バッカニカーズのアシスタントコーチ時代にダンジー・ヘッドコーチに学んだカバー2守備にある。
 
 パッカーズのマイク・マッカシー・ヘッドコーチは初出場への意気込みを謙虚に表現していた。就任5年目。人気実力共に頼っていたベテランQBブレット・ファーブを放出、チームの総合力を上げ、僅か2年でスーパーボウルにたどり着いた。シード最下位の6位からアウエー3試合を制してチーム力は急速に上がり、選手からの信頼はトムリンに負けない。NATA所属のべーカー大TE出身の苦労人だが、チーフスのショッテンハイマーの下で、アシスタントとして学んだウエストコースト攻撃、とくにQB育成にたけ、今も自身で攻撃プレーコールも担当する。
 淡々とファーブの後を継いだQBアーロン・ロジャーズだが、プレーオフ出場が厳しくなった終盤、脳震盪で2試合欠場した直後から、レベルが違う急成長をみせた。強肩、とくに動いてからのクイックリリースは完成品である。レギュラーシーズンのパッサーレイティング101・3も一流だが、プレーオフに入ってからは、冷静な判断力が増し、109・2までに評価が高まった。カリフォルニア出身で、子供時代のアイドルだった49ナースのQBスティーブ・ヤングの右腕と評価されてきたが、スーパー直前の会見では、第1回、第2回とMVPとなったパッカーズのQBバート・スターの名前を自らの目標と話すことが多くなった。表情は写真やフィールド上よりずっと若い。

 34守備のトップ対決も話題だが、パッカーズで光るのは2年目のOLBクレー・マシューズで、NFLエリート家系育ちながら、自力で鍛え上げた激しく鋭くパスラッシュは、それだけ見ていても十分に楽しい。動きにスリルがある。リーグ3位の13・5サックだが、攻撃の警戒心を自身にひきつけた功績が、それ以上に大きい。50人で選考した最優秀守備選手賞を僅か2票差でパラマールに譲ったが、「気にしない。目標は優勝だけ」とクールな口調も、パラマールと共通していた。この2人共にUSC(南カリフォルニア大)出身、質は違うが長髪も共通して来た。

ゲームの構造
 2チームには、共通点が多い。
 比較的に小さな本拠地で、ドラフトを基本にして選手を育成する、リーグの伝統を支えてきた名門チーム。基本とくに闘争心やチームへのロイヤリティを重視して、守備に重点を置くが、現代的な戦術、思考の導入には積極的に取り組む。
 攻撃はマルチプル、守備は34。とくに守備は、パッカーズのDCケイパースがスティーラースのDC経験もあり、ピッツバーグDCラボウと展開するゾーンブリッツの攻防が話題を呼んでいる。両者の前回の対戦は、試合終了と同時に決めたWRウオレスへのTDパスで、スティーラーズが37対36で逆転勝ちしている。

 今年のスティーラーズの攻撃は、ロスリスバーガーからのパスが中心となった。なったのは、攻撃ライン主力の両OTスタークス、コロンが負傷で欠場となった影響が大きい。ランブロックが出来ない。新人Cパウンシーの明日の負傷欠場が確定した。WRウォードでファーストダウンを稼ぎ、要所でウォレスへの深いパスでTDを狙うのが定石となったが、第1、第2ダウンでRBメンデンホールがそれなりの距離を稼ぐのが前提になる。ペーパーナプキンと揶揄されるほど心細いパッカーズILB陣を、NTで頑張る巨漢ラジがどこまで補助出来るだろうか。長い距離が残ると、マシューズ、守備の達人CB(兼NB)のウッドソンの強圧を受け、急成長のCBウイリアムズ、シールズに強奪される危険性がある。TEミラーがブロック補助に回り、フィールドに出る回数が少なくなるが痛い。

 一方、パッカーズがボールを持つと、局面は多彩になる。パッカーズの攻撃を成功させるには、まずパッシングを確立させねばならない。書き間違えではない。まず、パスである。バンチを含めたスプレッドで攻撃を開始するのはスティーラーズも同じであろう。ただし、パーソネルが違う。パッカーズはジェニングス、ドライバーにジョーンズ、ジョーンズを加えたWR4人のビッグ4、またはTEクォーレスを加えたビッグ5と呼ばれるレシーブ要員を強化した起用となるはずだ。体型は同じでもあきらかにパッシングである。スティーラーズの守備がいかに対応するのか。それ次第で、RBジャクソン、スタークスの出番が変わってくる。スティーラーズのLB陣は、強力なエッジラッシャーであるハリソン、ウッドリーに加え、ティモンズ、ファリアと万全だが、記者会見でファリアが宣言したように、「まず、ラン守備」の布陣である。LB4人はやっと及第点のパスカバーしかできない。ロジャーズの3ステップからクイックパス、アクションパスやスプリントしたアクションパスに対応できるのか。DBもディープは強力とはいえない。パスで優位を握れば、RBの出番になる。
 スペシャルチームは出入りが激しかったが、タレントはそれなりで五分だろう。スティーラーズは、Pマスティがプーチパント、スクィーブキックをこなし、PRブラウンにはリターンTDもある。わずかに優位か。
 総合して、2週間前の31対27でパッカーズの優位予想を変える明白な確認は出来ていない。
 前日となった6日(土)、ダラス入りして初めて太陽を見た。青空が広がり、積雪はあっという間に、小さくなった。しかし予報では、明日も再び降雪するという。
 NFLの最重要課題である、労働協約改訂には現在も労使間の歩み寄りはない。もし事態に大幅な進捗がなければ、とりあえず明日が最後のNFL試合となる。ダラスの雪はなにかを隠したかったのだろう。(11年2月6日、午前1時33分)

第2部 北帰行

 パーフェクトなゲームプランと、及第点のエクスキューションで、パッカーズが4度目のスーパーボウル制覇をとげた。豪華なカウボーイズ・スタジアムに、金箔が渦を巻き、ゴールドの選手たちが跳ねまわった。31対25、逆転可能な僅差が残ったが、内容はパッカーズの快勝に近かった。
 開始から主導権はパッカーズが握った。最初からビッグ5がフル稼働した。両サイドに2人計4人のワイドレシーバーを入れ、状況に応じて、アラインを変えて、的確にミスマッチを確認したQBロジャーズが速く精確なパスを投げ込んだ。レシーブの主役は推定どおりに、第3、第4WRのジョディー・ネルソンとジェームズ・ジョーンズだった。試合最初の攻撃、第1ダウンにフェイドルートの完全なパスを落としたネルソンだったが、こなれてきた1Q残り3分33秒には、CBゲイを振り切って29ヤードのTDパスで先制点をあげた。190センチと長身の白人WR、キックリターナーから腕を上げ、ロジャーズの信頼を勝ち取った。まだもろさもあり、この日は決定的な場面で3回の落球があったが、結局チーム最多の9捕球140ヤードを獲得、陰の主役ともぃえる存在だった。
  先制点の24秒後に、守備バックも期待にこたえた。ロスリスバーガーがWRウォレスに投じたパスをFSコリンズがむしりとるようにインターセプト、そのまま37ヤード走って、14対0と加点した。過去スーパーボウルでリターンTDをあげたチームは11勝0敗と場内表示が出て、緑色の観客が大歓声をあげた。
 2Q序盤にスティーラーズが慎重にドライブしてFGを上げたが、パッカーズはモメンタムを渡さない。WRウォレスを狙ったパスを、心意気を感じさせる動きでNBブッシュがインターセプトして好機を作り、21ヤードからロジャーズが閃光のように鋭いパスをSSポラマールの直前に走りこむエースWRジェニングスに投げ込んだ。完璧なパスはポラマールへの挑戦状に見えた。21対3。
 スティーラーズのサイドラインでは、トムリン・へッドコーチがマイクに喰いつく勢いで怒声をあげた。一方パッカーズには負傷が連続した。守備の要、SS役を担っていたウッドソンが肩を痛打(鎖骨骨折)して、守備バックに動揺が起こった。テンポよい前進でスティーラーズがWRウォードへのTDパスを決め、あっさり10対21と点差をつめ、パッカーズはあわてるように前半を終わらせた。

 後半もモメンタムはゆっくりとスティーラーズに傾いた。反則の少ないパッカーズがフェイスマスクで15ヤード後退して好機を与え、第3Q残り10分25秒、RBメンデンホールが走って、差は17対21と縮まった。ここからの15分間が勝負を分けたのかもしれない。ぎりぎりの状態でパッカーズが、失点を防ぎ続けた。ゾンボのQBサックでFGを防ぎ、短いポジションでも粘って時間を消化した。
 パッカーズ逃げ切りを確信したのは、第4Q前半、自陣33ヤードまで攻め込まれた第2ダウン2ヤード、確実なFDを狙い右オフタックルを走るRBメンデンホールに正確なタックルが入った。左肩がボールを叩き出した。この日完璧に抑えられていたOLBマシューズのファンブル・フォースだった。LBビショップがおさえた。スティーラーズにとってはこの日3回目となるギブアウェー。ロジャーズは前半のテンポで、ネルソン、ジョーンズに投げて注意を拡散、最後はこの日2回目となるジェニングスへのTDを決めた。残り11分57秒、28対17と差が開いた。
 スティーラーズの次のドライブ、WRウォレスへのTDパスそしてQBからWRランドールエルへのピッチの2点PATもたしかに鮮やかで28対25とFG差まで追い上げたが、ここでスティーラーズの集中力が切れたと感じた。18点差を3点差にした時点で、今季の完結を覚悟したのではないか。スティーラーズは多難なシーズンを最良の生き方で乗り切ってきたが、まだ王者たる情熱は完成していない。識者は逆転への可能性を説くが、パッカーズが次の攻撃をFGに結び付け、31対25となって、私のスーパーボウルは終わった。
 これで、スーパーボウル覇者におくるビンス・ロンバルディ杯は、14年ぶりに故郷である北の果て、グリーンベイに戻ることになる。北の町には、どんな寒さにも凍らない、温かいチームへの愛情が待っている。男たちは、杯を掲げて、北へ帰る。

 攻撃獲得は、グリーンベイ338ヤード、ピッツバーグ387ヤード。ロジャーズのパスは、39回24成功304ヤード3T0I、ロスリスバーガーは40回25成功263ヤード2T0Iだった。(11年2月7日06:30)

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