ベリチックの薀蓄

NFL史上初の大混戦でサバイバルする

Football galvanizer
Sadao Goto
(TOUCHDOWN PRO2010年10月発売号より転載)

AFC三強NFC二強
 NFC勢の巻き返しが期待を集める10年度NFLだが、中盤へ向かう第6周を経過したところで、様相は一転している。トップの1敗を守るのは3チームだけ、ジェッツ、ペイトリオッツ(東地区)、スティーラース(中)とすべてAFCチームだ。昨季は、同時期で無敗が4チームいた。全チームが第4戦を終了した時点で全勝なしとなったのは、1970年リーグ合併後初めて、とんでもない大混戦時代の幕明けである。

 一番勢いがあるのは、緒戦でレイブンズに惜敗した後は5連勝のジェッツだ。熱血ライアン・コーチが指導する攻撃的守備、若手QBサンチェスの成長に加え、今季加わったRBトムリンソン、CBロジャーズクロマティー(以上、前チャージャーズ)、WRホームズ(前スティーラース)などの全プロ級実力選手が気持ちよさそうに活躍している。要所でGTレシオ(ネットの攻撃権奪与数)プラス10の強奪守備で好位置を獲得、得点はリーグ4位、失点は6位。日程もAFC北、NFC北と比較的楽なので、まずプレーオフは間違いない。
 スティーラーズは、シーズン開始前にエースQBロスリスバーガーの不祥事が発覚、4週間の出場停止となり、チームも沈滞とみられていたが、エース不在がチーム全体の底上げとなった。定評の守備が盤石で攻撃を助け、選手関係者のチームへ強いロイリヤリティを感じた。代役をこなしたコブの評価が上がり、危機感を感じたか、ロスリスバーガーは復帰戦でブラウンズ相手に3TDパスを投げた。
 本拠でのスーパーボウル出場を目指したカウボーイズ(NFC東)は、まさかの1勝4敗。プレーオフ出場も難しくなった。QBロモ、WRオースティン、LBウエアなどタレントは十分で、攻撃獲得距離はリーグ3位、喪失距離も4位と、優勝候補にふさわしい記録だが、得点は16位、失点は22位と結果に結びついていない。原因は要所でのミス、低いメンタルがその根底にあるはずだ。顕著なのは、反側数。とくに攻撃での反側が多く、5試合で49回と、6試合チームを押しのけてのリーグワースト3位。TOレシオもマイナス5と打つ手なし。豪華スタジアムを建築して、今年にかけたジョーンズ・オーナーの顔にも落胆の影が浮かぶ。
 去年のNFC選手権終了直前に痛恨のインターセプト喫し、ほぼ握っていたスーパーへのチケットを奪われた、バイキングス(NFC北)も崖っぷちである。開幕戦セインツ戦に敗れて歯車が狂い、第6週にカウボーイズを24対21で下し、2勝4敗で踏みとどまった。エースWRライスが腰負傷で前半戦欠場となり、投走のバランスが狂った。QBファーブとの練習時間不足も微妙に影響、さらに5週終了時に、2年前のファーブ自身の不祥事が浮上、急遽ペイトリオッツから獲得した大物WRモスの真価も今一つ発揮できていない。ファーブは13サック、去年107・2あったPS(パッサーレイティング)が並以下72・1と乱調。攻撃24位、守備5位。TOレシオもマイナス5である。

次世代ペイトリオッツ155で始動?!
 序盤で注目したのは、まさに新旧交代期にある、ペイトリオッツだ。現役ヘッドコーチではトップの能力と評されるベリチック・コーチと、エリートQBブレイディが支える。
 WRには人気のモスと信頼のウェルカーがいた。しかし、シーズン前には、ウェルカーは膝出術のため、出場は中盤からと不安定な状態だった。34歳のフレッド・テイラーとバックアップの33歳のサミー・モーリス、34歳のケビン・フォークのシニアRB陣ではいかにも迫力がない。攻守のラインも盛りを過ぎかけていたし、すこし前までの黄金時代を支えてきた売り物のLB陣はすっかり入れ替わり、DB陣はほとんどが未経験選手からのスタートだった。
 それでも、ペイトリオッツのプレーオフ出場を確信したのは、ベリチックとブレイディの指導力があるからだ。
 地元での開幕戦、ベンガルズに38対24で快勝した。元気なウェルカーが出場、地元を喜ばせ、いきなり2TDパスをキャッチした。ブレイディは「オフには(実家のある)西海岸にウェルカーが来て、一緒に練習していた」。
 試合の数日前、ブレイディは4年間で7千2百万ドル(64億8千万円=90円ドル)のリーグ最高金額で契約を更改、さらに同日車両事故(被害なし)まで起こす、騒がしい出だしだった。しかし、試合終了後、5捕球59ヤードに終わったモスが今年終了する自身の契約更改につきチームからの連絡がないことに不満を漏らした。
 ジェッツを訪れた第2戦、14対10とリードして迎えた後半、ジェッツの強圧もあり、モスへ投げたパスがインターセプトされ、14対28で逆転負けした。
 ホームでの対ビルズ戦は、ブレイディが78%の成功率、3TDパス(うち2はモス)で、142・6の高レイト、攻撃は38対30の乱戦を制した。前週に負傷多数発生、スタートRBは前週のフォークからグリーンヘッドとなった。
 第4戦のドルフィンズ戦は、トータル(総合力)アクセスを実践した試合となった。モスが入団以来初の捕球なし、攻撃獲得距離はわずか265ヤード。しかし、41対14で快勝した。Sチャンがパント、FGと2つのキックをブロック、一つはリターンTDに結びつき、さらに自身は51ヤードのインターセプトリターンTDを記録した。2年目のWRテートが103ヤードのキックオフリターンを記録した。攻撃以外で3TDを記録した。スタートRBはグリーンエリスとなった。しかし、ドルフィンズに400ヤードをゆるし、喪失距離は平均384・5ヤードでリーグ最下位、大きな課題となった。
 第5週はバイウィーク(休場週)、しかし、この間にモス(33歳)がバイキングスにトレードで電撃移籍、その5日後に、ペイトリオッツは4年前にシーホークスに移籍した、WRディオン・ブランチ(31歳)を獲得した。彼は2004年ペイトリオッツが3度目のスーパーボウル優勝を果たした時のMVPである。
 第6週はシーズンの流れを左右する、4勝1敗と好調のレイブンズ(AFC北)とのホームでの対戦だった。第4Qにブランチの好捕を織り込んで追いつき、延長でも要所でのブランチの巧捕を、決勝の35ヤードFGを決め、23対20で4勝目をあげた。
 今年のペイトリオッツの大きな方向が2つ決まった試合となった。
 一つは攻撃、模索していた基本体型とパーソネルが固まった。脚力のあるエルナンデズとグロンコウスキーの新人TE2人に、WRウェルカーとブランチを組み合わせ、シングルバックにはグリーンエリス入れた、ダブルタイトエンド体型が基本になるだろう。第一に、冷静な判断力を持つブレイディの選択肢が増えた。見慣れたウェルカー待ちのシーンは少なくなるはずだ。同じサイドにTE2人を並べれば、マンマッチで有効な方がリリースといった選択も可能になるし、両サイドをタイトにして2人を縦にディープミドルへ走らせば、プレーン・ストレッチ(平面拡張)とも呼ぶべき、効果も期待出来る。P・マニングと並ぶ、プレーアクションの名手であるブレイディの能力を生かせせる。モス放出で抜けたディープへパスは、ブランドン・テイト(1年目)の成長待ちだろう。6週終了時点で、攻撃距離10位(354ヤード)は安定している。得点1位(30・8点)は前述のキック、守を含めた総合力。
 もう一つの課題、守備。失点25位(23・2点)はベリチックの名前が泣くお粗末な数字だ。守備喪失距離30位(383ヤード)の、とくに29位のパス守備に足を引っ張られている。TOとオチョシンコにやられたベンガルズ戦、フェニーに攻められたドルフィンズ戦の数字が大きいが、対応策は出来たようだ。レイブンズ戦の第4、第5Qで効果をあげた155体型だ。基本は344で、第1、第2ダウンを守り、第3ダウン・ロングはダウンラインマンを1人(通常はDTブライアー)、LB5人(うち2人は3ポイントセット)、DB5人の布陣で、若手LBが走り回った。リーダーのLBメイヨ、FSチャンを中心に、次世代ベリチック守備がスタートした。
 11月は14日スティーラーズ、21日コルツ、12月6日ジェッツと難敵は続くが、ベリチックの薀蓄コールを期待したい。
 反側とミスの減少とラッシングの安定で、勝率が好守備に比例してきたジャイアンツだが、締切直前で、注目のカウボーイズ戦(10月25日)は紹介できない。NFC勢が3年連続させている、前年度8勝8敗チームのスーパーボウル進出で、今年その可能性が残るのはジャイアンツだけである。

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