ティーボウの青いタオル

ブロンコス四軍QBのチャレンジ

Football galvanizer
Sadao Goto
(TOUCHDOWN PRO2010年6月発売号より転載)

 サマーキャンプ直前、シーズン開始まであと2ヶ月。ドラフトで入団の決定した、新人選手たちはチームの5月キャンプに入り、プロ選手としてのガイダンスに取り組んでいた。今年のドラフトで、事前の低い評価にもかかわらずブロンコスに第一巡指名を受け、話題となったフロリダ大のQBティム・ティーボウも、コロラド州イングルウッドにあるブロンコスのトレーニング場で、早朝8時からのセッションに参加していた。午前10時30分から実技練習、ランチを挟んで、午後にはフィルムセッションと授業が続く、ハードなプロ入り前の予習の期間。米誌が特集した密着取材を覗き見しながら、ユニークな新人の横顔を紹介しよう。

 ティーボウは最近の米国カレッジ界では出色の人気選手だった。2007年、南部の名門フロリダ大で2年生でスタートQBに抜擢されると、タフな走りを中心に活躍、ラッシング、パッシング何れでも20TDをあげるNCAA史上初の記録を樹立した。チームは9勝4敗で全米13位に終わったが、本人は全米大学最優秀選手としてハイズマン杯を獲得、これまた2年生での受賞は史上初だった。歯切れは今一歩だが、弁舌も爽やかで、先頭に立つことをいとわない正義漢。ハンサムな白人とあって人気者にならないはずはない。
 その彼を初めて見たときに、私がイメージしたのは、49ナースのスティーブ・ヤングだった。走れる、サウスポーQB。そして、もう一つの共通点があった。

 その彼の評価は、ファンはともかく、プロの間では低かった。彼のパス能力に多くが疑問符をつけたからだ。フロリダで彼を生かしたのは、スプレッド・オフェンスいわゆるショットガン攻撃だが、攻撃の中心は自身のラッシングだった。パッシングの通算成功率は67・1%と高かったが、大学4年間でドロップバックの経験なし、NFLで通用する基礎技術がなく能力だけ成功させていたと酷評を受けていた。191センチ、103キロの身体もプロQBとして並の並で、大きな武器にはならないだろう。NFLでは上手くいってもRBに転向してワイルドキャット要員だろう。それが、大方の評価だった。

 もう一つ、評価がしにくい事実があった。ヤングとのもう一つの共通点である。密接な宗教との関連である。ヤングがモルモン教の開祖でありブリガム・ヤング大の創始者の直系親族であることは有名だが、ティーボウの父親はキリスト教の宣教師で、ティーボウは父親の布教先である、フィリピンのマニラで生まれている。
 敬虔なクリスチャンの家庭育った彼は、2009年のBCS決勝戦でいわゆる「John 3:16」騒動を起こした。ティーボウがアイブラックの上に白字でJohn3:16と書いて出場したのだ。聖書の有名な一文である。全米中継された試合後、グーグルでは9千2百万人がこの文字をサーチしたそうだ。NCAAはこの騒動を受けて、10年度の競技規則改正でアイブラックでのメッセージを禁止する。
 今年のスーパーボウルで放映された、外郭団体『フォーカス・オン・ザ・ファミリー』の30秒広告にティーボウが出演した。全米で最も視聴率の高いスーパーボウル中継番組で、彼のパーソナルヒストリーが広告として放映された。離婚の子供に与える影響や、中絶に関する直接的なメッセージはなかった。フロリダ大時代にも、休暇を作っては、フィリピンの貧民街を訪問したり、米国刑務所を慰労したりと積極的に普及活動を行っていた。

 そのティーボウは、イングルウッドで、ヘッドコーチのジョシュ・マクダニエル一族総出の、パッシング改良講座で指導を受けていた。34歳と若いジョシュの講義、弟の30歳のベンの指導そして61歳の父親トムのインストラクトで、大学時代に一度も取り組んだことがない、安定したパッシングフォームへの改良に取り組んでいる。キーポイントは、右のわきの下にあった。パスするたびに、右手が不安定に動き、コントロールの精度を下げていた。息子2人の高校時代のヘッドコーチだったトムの提案で、ティーボウは一日中ブルーのタオルをわきの下に挟み、それを落とさぬように練習を続けた。そして、1日150球のパス練習。ティーボウは実技が終了すると、まるで巨人のショルダーパッドの様なアイシングバッグを肩に巻いた。ティーボウのパッシング再チャレンジが開始した。

 不確定な要素が多いティーボウを、なぜ第1ラウンド、25位の高指名で獲得したのか、そう問われたヘッドコーチのマクダニエルは、「タフであり、知性があり、素晴らしい性格であり、フットボールを愛していること。デンバーに来て、シャンピオンになることに情熱を持っていること」と答えた。今年試合に出場するか未定で、出場したとしてもワイルドキャット体型なるだろう、とも付け加えた。ブロンコスのLTには、今NFLで最も強いラインである、ライアン・クレイディがいる。ティーボウとクレイディ、新コンビによるワンポイント攻撃ぐらいは期待してもいいだろう。
 ペイトリオッツでブルチックに学んだ、独特の高度戦術をマクダニエルズが指導して2年目、今年のブロンコスには、去年一軍のカイル・オートン、ブラウンズから来たブレイディ・クイン、フレスノ州立卒の2年目トム・ブラッドスターがいる。ティーボウは「全米で最も祝福された四軍QB」と全米誌が揶揄したが、ティーボウの成長が、若き天才ヘッドコーチと評価されるマクダニエルズの将来をも左右することになりそうだ。

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