ダブルAギャップブリッツ

サンドラ・ブロック『ブラインドサイド』受賞記念

Football galvanizer
Sadao Goto
(TOUCHDOWN PRO2010年3月発売号より転載)

ブラインドサイド
「生まれて、初めてだ」
「なにが?」
「自分のベッドに寝るのは」
 与えられたベッドの前、極貧の高校生のこんなやり取りにはぐっと来てしまう。書籍(ランダムハウス講談社刊)でも、このくだりでは胸が詰まった。
 映画『幸せの隠れ場所』の、序盤のシーン。
 深夜過ぎて自分のベッドから逃げ出す近頃の少年少女には通じない感情かと思っていたら、「あそこで泣きました」との声も多かった。琴線の部分はなんとか繋がっているようだ。
 日本で公開された直後、サンドラ・ブロックがアカデミー主演女優賞を獲得した。隣のお姉さんタイプの彼女が、気風の良い、芯のある、魅力的なお母さんを演じていた。私は父親役、娘役の普通の脇役たちが気に入った。米国では公開後数週間興行収入1位、ブロックのアカデミー表彰式も報道された。表彰式のサンドラは少し色が白すぎた。 
       ☆
 原題『ブラインドサイド』は生かしてもらいたかった。アメフ用語で、右利きQBが見えないサイド、つまり左攻撃タックル(LOT)が守るサイドをブラインドサイドとよんでいる。対して、見えるサイドをビューサイドという。ブラインドを避けたのは、差別用語への配慮だろうか。昨年レイブンズに1位指名されたOTマイケル・オアーの実話の小説化、映画化で、フットボールが一般に一歩踏み込むきっかけにはなるかもしれない。私にとっては『頑張れ、タイタンズ』、『エニイ・ギブン・サンデー』と並ぶ、アメフ好感映画ベスト3である。TDで紹介しているだろうが、近々あの曲者大物俳優が主演する『ロンバルディ』も制作に着手するようだ。

NFLブラインドサイド戦線異常あり
 ブラインドサイドの攻防は現代NFLの最重要課題、勝敗を左右する攻防分岐点ともいえるだろう。パスを生かせるか、殺せるか。元祖のローレンス・テイラー、名手マイケル・ストレイハン(以上ジャイアンツ)は引退したが、ドワイト・フリーニー(コルツ)、ジェームズ・ハリソン(スティーラーズ)、ジャレット・アレン(バイキングス)、ジュリアス・ペッパーズ(ベアーズ)、エルビス・ドゥーマビル(ブロンコス)など驚異的なパスラッシュをみせる右DE(RDE)または右OLB(ROLB)にはタレントが揃っている。一方、迎え撃つ攻撃LOTは、最近は世代交代時期で、大いに押され気味。大ベテランのオーランド・ペース(前ベアーズ=リリース中)、マット・スタークス(スティーラーズ)、マット・ライト(ペイトリオッツ)、フローゼル・アダムス(カウボーイズ)はくたびれて来た。マイケル・ルース(タイタンズ)、ジェイソン・ピータース(イーグルス)、ジョー・トーマス(ブラウンズ)など若手がリーグの先頭に出た。今年は右OTだったオアーも、巨漢206センチのジャレット・ゲイザーからLOTの座を奪いたい気持ちだろう。
 
攻めるDE、守るOT
 パスラッシュを主任務として、ライン外側からラッシュするDE(OLB)をエッジラッシャーと呼んでいるが、それをブロックするOTとの攻防は、従来のスクリメージのイメージとは少し違っている。一般的な攻防は「攻撃はどうラインアップするか、守備はどう反応するか」が主題となっているが、RDEとLOTの関係は逆転している。守備はどうラインアップするか、攻撃はどう反応するか。速度を生かし多様なテクニックでQBを襲うDEを、OTがいかにブロックしてQBを守るか。LOTはサイズ、リーチに加えて動き、敏捷性が重要となった。圧倒的な力の差がある場合、LOTの外側にTEまたはスロットバックを入れ、2人でDEをブロックするのも、日常的な対応となった。
(ブラインドサイドで1試合約50回は繰り返される『アナザーゲーム』。日本の試合でも、OLB山中(松下電工)対LOT平本(アサヒ飲料)なんかの攻防はじつに見応えがあるので、関西在住の方には推薦する)

ダブルAギャップ・ブリッツ
 最近、エッジでの攻防から離れたパスラッシュ・テクニックの一つが注目を浴びてきた。一般にダブルAギャップ・ブリッツと呼ばれるラッシュ・テクニックで、エッジラッシュの効果が出ない場合、あるいはラッシュに変化をつけるのに使用することが多い。
 CとOGの間をAギャップと呼ぶが、パスと確信出来るダウンに、Cの左右に各1つあるAギャップに1人ずつ合計2人のLBをブリッツさせる。ラッシュする選手をインサイドからピックしてブロックするのが、パスプロテクトの原則だが、この受け渡しが実技では難しく、サックの確率は高い。うまく受け渡しが出来て、中央からのブリッツを止められても、守6人対攻5人の関係から、もっとも外側の1人つまりDE(OLB)がフリーになってしまう。LOTがRDEブロックに夢中ならば、DTがフリーになる。スピードが欠かせない、前陣速攻の典型だが、脚のないQBに圧力をかけるには最適で、マイアミ・スーパーボウルでは、ペイトンを大分悩ましていた。

back