ノーハドル炎上

第44回スーパーボウル、マニング落胆の内側

Football galvanizer
Sadao Goto
(TOUCHDOWN PRO2010年2月発売号より転載)

 魑魅魍魎の世界だった30年前はいざ知らず、ここ10年ぐらいは、スーパーボウルはその年のすべてのエッセンスを詰め込んだ、総括つまり仕上げの試合となってきた。
 今年はさらに幕は進み、絶対値を前面に出すのでなく、相対値がチャンピオンを決定する時代へ。スーパーボウルが全チームに門戸を開く新ディケードを迎えた。
 SB特集号(2月13日発売)の『マイアミの奇跡』でも触れたが、前年度8勝8敗のセインツが頂点の試合で完璧なゲームを展開した。その勝負の分岐点となった項目をまとめておこう。

解かれたノーハドルの魔術
 第4Q中盤、サイドラインのマニングの、あれほど沈痛な表情を見た記憶がない。
 自身のコントロールミス、レシーバーのキャッチミスへの反省もあっただろうが、もっと奥深い理由を感じた。
 コルツ攻撃の特徴は、ご存知のように、決定的な状況でのノーハドル攻撃(NH攻撃)だ。マニングはプレスナップの相手守備体型を判断して、最も効果的なプレーを選択して、オーディブルで選手に伝える。攻撃にテンポが生まれ、守備は交代の自由が制限され(状況に応じたスペシャリストの起用が難しく、疲労への対応も出来ない)、なによりそのダウンの守備体型の弱点をつくプレーを選択できるのが大きい。しかし実践には、周到な準備と心身のスタミナが必要で、どこでも容易に導入できる戦法ではない。
 近年のマニングは、NH攻撃では完璧な選択とパフォーマンスを展開していた。マニングが大声またはゼスチャーでオーディブルを叫びだすと、守備が疑心暗鬼になる(と推測出来る)シーンも多かった。守備の混乱を誘うための、オーディブル自体がフェイクであることもあったようだ。NH攻撃の魔術である。
 しかし、この日、マニングの魔術は破れた。
 第1Q最初のドライブも、11(攻撃)プレーのうち6回NHを織り込んだが、完璧にはほど遠かった。TEクラークへの絶妙なパスで開始したが、途中LGデバンの反則(フォルススタート)が出たのは不調の証だろう。NO20ヤードでの、3d&5の決定機に、RWRガーソンへのクイックスラントをオーディブル、ガーソンは名手CBグリアーのマンカバーを抜いたが、マニングがミススローした。この結果、FGの3点止まり。
 次の攻撃は、SB史上最長となった97ヤードTDドライブとなったが、11プレー中NHは僅か3回、時間の意識も少しあったのか。それでも、決勝点はNHだった。NO19ヤードの3d&6で、LCBグリアが退き若手ヤングが交代出場しているのを見て、そこを突くRWRガーソンのダブルムーブのポストパターンをコール、独走のTDを奪ったのは、さすがというか、いつものいやらしいマニングそのものだった。
 しかし、NH攻撃に存在感があったのは、ここまで。2Qには、セインツのボールコントロールに制せられ、攻撃時間は僅か2分34秒だった。
 結局、前半のNH攻撃は、27プレー中11プレー、獲得したのは10点だった。
 後半のNH攻撃は、ほぼ完封された。もちろんそれなりの前進距離(263ヤード)はあったが、得点はわずか7点。NHは29回も展開したが、得点になったのは4QのRBアダイの4ヤードランだけだった。
 ペイトンのNHのプレー選択はセインツに完全解読されていた。そう判断したのは、WRウェインがRCBポーターを攻めて2つのパスでNO陣32ヤードに攻め込んだ、第4Q2分45秒からのシリーズだった。RBアダイの左ランが2ヤードに止った後の、2d&8が決定的だった。2歩戻ったWRコーリーがヒッチパスを捕球した瞬間に、マンカバーしていたCBジェンキンズがタックル、マイナス3ヤードとなった。プレーアクションを入れたクイックスクリーンだった。続く3d&11もNHだった。ショットガンの右スロットから左に動いたコーリーについてジェンキンズも移動、しかし、スナップ直前にMLBビルマが右手をあげて合図、ジェンキンズはそのままショートゾーンに残り、ビルマがタンパ2の動きでディープ2の中央部に下がり、ショートパスのポンプアクションをみせたペイトンが、ドラッグルート(パストパターン)を走るコーリーに投げたミディアムパスのボールを、ビルマはまさに余裕で叩き落した。4d&11、やむを得ず狙った51ヤードFGは左に外れ、ウイリアムズDCが両手を突き上げた。私は、2d&8、3d&11が、このスーパーの分岐点と思っている。

オーディブル返し
 その仕上げが、24対17と逆転して、迎えた4Q残り3分31秒、コルツがセインツ31ヤードに攻め込んだ3d&5ヤードの守備、ポーターのリターンTDである。コルツはNH攻撃を6連続させていたが、負傷タイムアウトで一息ついた後のプレーだった。左ツインで左FLコーリーが右にモーション、スロットの位置に移動した時点でスナップ、結果SBからFLとなったウェインがRCBポーターに向けて直進、FD更新線を超えた位置でカールしたが、それより早くボールに動き出したのはポーターだった。ウェインの1ヤード手前でボールを捕球すると、そのまま一直線に74ヤード走り、リターンTD。31対17と止めを刺した。
 この試合、ノーハドルに対抗する手段として、守備チームが攻撃チームと同様なプレスナップ・リードを行っていたと推測される。ダウン状況に応じた守備戦術で配置につき、攻撃のオーディブルを待ち、攻撃体型が確定したスナップ直前に、可能な修正を行う。たとえば、カバー2で守備配置をとり、攻撃が最終的にスプレッド体型をとれば、マンカバーに変更してSSのブリッツを入れる、といった対応だろう。あるいは、プレスナップの体型の弱点を意識させ、そこにボールを呼び込んだのかもしれない。
 ポーターのインターの場合、前半多かったカバー4のカバレッジの配置についたCBポーターが、この時はカバー2(ショートゾーンのカバレッジ)に変更、ウェインのカムバックに狙いを絞っていたと推測出来る。あるいはオーディブルでのスナップ直前のモーションに対応したのかもしれない。
 マニングのパス成績は、45回投げ、31成功、14不成功、1TD、1I、成功率は68・9%、パッサー・レーティングは88・5と平均点を下回った。しかも、不成功の半分7回がボールを叩かれる、インターセプトされる等のパスディフェンスを受けた、完全なマニングの負け試合だった。「申し訳ない、すべて私の責任」の言葉は儀礼ではない、まさしく完敗だった。今季のマニングは、昨季のブレイディ負傷の影響か、サックを避けリリースを早くした気がする、その傾向がここで出たのかもしれない。
 一方、ブリーズは39回で32成功、82・1%、1TD、0I、114・5とほぼ完璧だった。ブリーズのパスがIND守備に触られたのは、わずか3回である。

オンサイドキックはギャンブルか?
 2Qからモメンタムはセインツにあったが、それを完全に引き入れたのは、後半開始のオンサイドキックだった。13ヤード飛んだキックをセインツが抑え、得た好機をRBトーマスの16ヤードのスクリーンパスTDに結びつけ、16対10と逆転した。
 オンサイドキックをキッキングチームが抑える、成功率は20%というNFLの実績(03〜06年)がある。206回キックして41回成功が実数で、5回に1回の成功である。さらに細分した分析が05、06年の記録にある。レシーブチームがオンサイドキックと予測出来る状態でのキックの調査では、成功率は僅か12%しかなかった。この数字によれば、まさにオンサイドはギャンブル、というより、大儀を追求する自殺行為としかいえない。ところが、もう一つの分析がある。相手がオンサイドを予期しない状況でのキックを、サプライズ・オンサイドキックと呼ぶが、同じ時期の実績では、その成功率は50%、半分は成功している。攻撃意識の強いペイトン・ヘッドコーチは、状況を考え、絶対に近い自信でこのキックをコールしたに違いない。この成功で得たのは7点だけでなく、コーチとチームへの信頼だった(この項はNTV『NFL倶楽部』でも話したので、重複した情報となる読者もいるかもしれない)。

ブリーズの窓
 今季、109・6とリーグ1位のパッサー・レーティング、ただ1人の成功率70%台(70・6%)を記録したQBブリーズの長所は、速く正確な判断と.速く精確なパス能力である。わずか10回(2・1%)しかインターセプトしかされていない。この日も82・1%と高い成功率、114・5の超高のレーティングを記録した。
  183センチと、マニングより13センチも背が低いのをカバーするために、コルストン(193センチ)、TEショッキー(196センチ)、ミーチェム(188センチ)と長身を集めているが、彼のセインツでの成功は、ペイトンHCと共に開発した彼専用のパッシングプレーに負うところも大きい。
 キーワードは小さな窓。投げたボールが通るコースをスローイング・レーンと呼んでいるが、サイズがないブリーズには頭越しのレーンを作れない。そこで、開発充実させたのが、スローイング・ウインドー。攻守ラインの間に小さな窓を見つけて、そこを通してパスを成功させる技術。窓は狭く、角度次第で消えてしまう。開いた窓、あるいは開くはずの窓を待って、瞬時の判断で素早い投球で精確に投げる高度な技術がある。スーパーボウルでは、チェックスルーまたはフェイクをした後にダウンフィールドに出たバックに、走路に開いた窓を使って投げ込むことが多かった。走りながら投げるバランスと強肩を持つ彼だからこそのパッシング。踏み込んだ踵を支点として投げる独特なフォームからの投球もある。踏み込んだつま先がボールの方向と教えられた、普通のバックは大いに惑わされるようだ。
 パデュー大時代は米国大学スポーツ界を代表するほどの秀才だった彼が完成した独特のパッシング、その基本にある絶妙なコントロールを生む、NFL一鋭いボールのスピン(回転)もぜひこのオフのDVDチェックで一度確認して欲しい。

 キッキングと守備の活躍でセインツが6点差で優位と1月30日発売号に書いた。希望どおりの展開だったが、14点差となったのは、セインツの2点トライと、終了間際マニングのTDパスがすっぽり抜けたWRウェインのキャッチミスのせいにしておこう。

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