ベリチックの選択 

ペイトリオッツ@コルツ リアルSB分岐点

Football galvanizer
Sadao Goto
(TOUCHDOWN PRO2009年11月発売号より転載)

ベリチックのギャンブル!
 ベリチックの『フォースダウン・ギャンブル』は正しかったのか、全米スポーツファンの話題がここに集中している。
 恒例となった11月中旬、シーズン中盤での二強対決。ニューイングランド・ペイトリオッツ(東地区)対インディアナポリス・コルツ(南)の対戦は、実力が抜き出ている実力チームの対決とあって、AFC内部での対戦ながら「リアル・スーパーボウル」と評され、毎年ベストゲームに選ばれる、高次元の試合を展開してきた。
 バトル・オブ・ディケードの2009年版は11月15日、コルツの本拠ルーカス・オイル・スタジアムでのサンデーナイトゲームで開催され、前半圧倒的劣勢にあったコルツが第4Q終了13秒前にQBマニングからWRウェインへ1ヤードのTDパスを決め、35対34と大逆転勝ちを納めた。この結果、コルツは9戦全勝、プレーオフの本拠開催権に大きく近づき、レギュラーシーズン17連勝とペイトリオッツと並ぶ史上2位タイ記録を作った。一方のペイトリオッツは、同対戦の最近5試合が1勝4敗と大きく負け越しとなり、『実力王者』の誇りを奪われた。

 全米の関心を集め、インターネットのいたるページで論争が起こっているのが、試合終了まで2分7秒、6点優位にあったペイトリオッツが迎えた自陣28ヤードでの第4ダウン、残り2ヤードでのプレーコールだ。とうぜんパントとサイドラインに向かったQBブレイディが突然振り返って攻撃チームが戻るのを止めた。タイムアウトをとった後の攻撃体型は左トリプルのショットガン、ビル・ベリチック・コーチが選んだのは攻撃権維持を狙う攻撃だった。
 スナップ直前にRBフォークが右SBにシフト、捕って投げのテンポでブレイディが更新線30ヤードを越えたフィークにパス、ボールに触れたフォークをSSブリットがタックル、押し戻されるかたちでフォークは29ヤード地点でダウンした。審判の判定は29ヤードでのダウン。大歓声の中、QBマニングが登場して、4プレー後に入魂の逆転TDパスを投げた。
 直後から、全米ミニコミ、マスコミ入り乱れてプレー選択への大論争が始まった。
 大多数は反ベリチック派だった。パントで地域を稼ぎ、それを守り切るのが王道だとする意見だ。全指導書にもそう書いてあるに違いない。引退した元ペイトリオッツのLBブルースキー、WRハリソンはインタビューに答えて「血が沸騰してしばらくは下がらないだろう。失敗すればゴールライン直前となるギャンブルはおかしい。4ダウン2インチでなく、2ヤードなんだから」と怒り心頭に達した状態。
 直前に最後のタイムアウトを取ったべリチックの甘さも非難された。フォークは30ヤードではボールをお手玉して確保していない、というのが審判の判定だろうが、TV中継のリプレーでは30ヤード上で確保したとも見えた。しかし、ベリチックには判定へのチャレンジに必要なタイムアウトが残っていなかった。サイドラインのベリチックの顔がゆがんだ。
 投げるターゲットが違うとの意見もでた。直前のダウンで失敗したが、SBウェルカーの安定性、集中力を生かすべきと非難した。シフトに対応して、カバー2を崩してマンカバレッジで対応したSSブリットの判断力は良かった。
 第42回スーパーボウルの対ジャイアンツ戦、7対3でリードしていたジャイアンツ陣31ヤードの、第4ダウン残り13ヤードでブレイディにパスをさせたのと同じ判断と大分前の話を引き出して、ベリチック独特の戦術勘を批判する声もあった。

 批判の中で広く一般に受け入れられていたのは、守備チームへの信頼はどこにあるのかという主張だ。パントで40ヤードを稼げば、コルツ攻撃は自陣30ヤードからになるはずだ。70ヤードで2分間を守れないと判断するのは、守備不信の表れで、指導者としては長いシーズンの中盤でみせるべきではないと強調していた。

 翌日の記者会見で、ベリチックは「私は、それが勝つための最良のチャンスだと思っていた」と述べ、失敗したことは認めた。守備選手には「私はつねにチームが勝つことしか考えていない。今回もその考えで選択した」と説明したそうで、それで選手が納得したかの質問には答えていない。

ベリチックのギャンブル?
 整理してみよう。
 パントを蹴り、上手くカバー出来れば、前述したように、コルツは2分間をかけて70ヤードの前進が必要になる。試合前半なら、つまり一般論でいえば、守備がそれを止めるのは十分に可能だろう。しかし、あの正念場でペイトリオッツ守備がコルツ攻撃を止められたかというと、私は大いに疑問がある。第3Qまでの乱戦でペイトリオッツ守備の疲労は大きかった。とくにメイヨ、ガイトンのLB陣は動きが極端に鈍くなりDTごと押し込まれ、健闘していた新人LCBバトラー、2年目のDBウィルハイトの集中力も大幅にダウンしていた。それが顕著にあらわれたのが、残り2分23秒に28対34と1TD差まで追い上げたコルツのドライブだった。コルツは自陣21ヤードから79ヤードを僅か6プレー、1分49秒で進みTDをあげた。バトラーがコルツWRコーリーの速さに判断を誤ったインターフェアレンス(罰退31ヤード)が大きかった。タレントの劣化を変化でカバー出来るほど戦術は無敵ではない。直前に79ヤードを1分49秒間で進んだコルツが、2分間で70ヤード進む可能性は何%になるのだろう。フットボール特有のモメンタムを考慮すれば100%近いのでないだろうか。仮に60%としよう。
 一方、ペイトリオッツが第4ダウン残り2ヤードで更新出来る確率である。今季この試合まで、ディスタンスは不明だが、ペイトリオッツは10回第4ダウンでプレーを行い、うち5回でファーストダウンを獲得した、つまり50%だった。この試合でもファーストダウンをとれば、あとは3回のニーダウンでほぼ勝利は手中に出来た。
 つまり、ベリチックの選択は、40%と50%を比較した合理的な判断であり、第4ダウン残り2ヤードでの攻撃はギャンブルと呼ぶ必要はないと私は思っている。ベリチックはギャンブルが嫌いなのである。
 勝負を分けたのは、選手の持久力と選手層の厚さ(デプス)だった。レギュラーシーズンももう残り7週、今年プレーオフでの両者の再戦はあるのだろうか。

 なお、史上最高を争う対決と焦点された2人QBだが、ペイトン・マニングが64%、327ヤード、4TD、2Iでレーティング97・4、トム・ブレイディが69%、375ヤード、3TD、1Iで110.7とほぼ引き分け状態だった。

 
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