ノーハドル・オフェンスの攻防

早くも混沌、NFL開幕

Football galvanizer
Sadao Goto
(TOUCHDOWN PRO2009年9月発売号より転載)

 瞬きして1つダウンを見逃すと、その後のゲームのストーリーについていけない。リーグのパリティ振興策が浸透して、各チームの保有する能力つまりタレント総量はほぼ等しくなり、試合の勝負やリーグ優勝の行方を左右するのは二点、戦術とパフォーマンスに絞り込まれてきた。これはもう、目茶苦茶楽しい。至福の時代の到来だ。
 スティーラーズの連覇がかかる2009年度シーズンだが、私が予想した第44回スーパーボウル出場は、AFCがペイトリオッツ(東地区)、NFCはジャイアンツ(東)。実力的にプレーオフへの有資格チームであり、プレーオフで鍵となるチームへのロイヤリティ(帰属感)が強いことが、第一の推薦理由だったのだが、そんなのんびりした岡目八目は通用しなくなって来た。環境は加速度的に進化している。
 第2週を終わった9月22日現在、上記3チームに準優勝だったカージナルスを加えた、注目4チームのうち全勝はジャイアンツだけ、残りは1勝1敗となり、ワンランクアップしたリーグ水準を反映する結果となった。直接的な敗戦理由は、主力の負傷欠場だった。スティーラーズは第2戦でSポラマールを欠き、カージナルスは第1戦にWRブレストンが欠場、ペイトリオッツは第2戦でWRウェルカーを欠いた。
  この4チームの序盤戦で高水準の戦術対決を象徴するノーハドル・オフェンスの攻防に注目した。とくにスティーラーズにとって、破壊力のある守備力と共に、終盤の窮地でのQBロスリスバーガーのノーハドル攻撃が、連覇への大きな鍵となっている。

ノーハドル攻撃
 攻撃前にハドルを行わないノーハドル攻撃は、約40年前から、試合終了直前のいわゆる2ミニッツ・オフェンスとして普及していた。前のダウンが終了したら、全選手は直ちに基本体型に位置、QBは次ダウンの体型とプレーのシグナル(暗号)を声で伝達(オーディブル)、選手がそれを理解対応してからスナップするというのが一般的だ。短い時間に出来るだけ多くの攻撃機会を持つための攻撃だったが、それを主力攻撃に進化させたのは、1988年シンシナティ・ベンガルズ(AFC)のサム・ワイチ・コーチで、QBアサイアソンがその主役だった。翌年にはバッファロー・ビルス(AFC)がQBジム・ケリーの能力を生かした、ショットガンからのノーハドル攻撃『K−GUN』を主力に採用。持久力と機動力を持つ選手を育て、自チームのテンポで速い攻撃を展開、守備から体力を奪い、守備が戦術対応する時間(守備ハドル)を奪い、選手交代の時間を奪った。ビルズは91〜94年のスーパーボウルに4年連続出場を果たしたが、優勝は果たせなった。

プレスナップの攻防へ
 現在のノーハドル攻撃は、さらに進歩して、プレスナップの攻守戦術の探りあいへと重点を移した。
 変革のベースにあるのは、優秀なQBの台頭だ。次にどのプレーを行うか、プレーコールつまり戦術選択はコーチにとってはチーム運営の最大の切り札で、20世紀的思考では、選手が入ることが出来ない禁断の世界とされてきた。「スタッフ10人の職業を1人の若者の思いつきにゆだねることは出来ない」と言い切るコーチもいた。
 したがって、ノーハドル初期におけるプレーコールは、すべて事前に決定したシナリオどおり、あるいはサイドラインからハンドシグナルで送られた指示の実践だった。ところが、最近では限定した範囲であるが、フィールドに立つQBが自身でプレーを選択する例も出てきた。チーム作り、プレー作りからコーチ会議に参加して、戦術の目的と構造を理解した優秀かつ熱心なQBが出現してきたのだ。彼らは、プレスナップの守備対応を判断して、事前に準備した中から最適なプレーを選択する。コルツのペイトン・マニング、ペイトリオッツのトム・ブレイディ、スティーラーズのロスリスバーガーなどがその典型であろう。

ヘルメットレシーバーの採用
 競技規則の変更も、プレスナップのフィールド上のやりとりを濃厚にした。
 94年からサイドラインのコーチから無線でQBへプレーを送るシステムが認可された。その場の状況、攻守の出場選手に応じた情報が正確にQBに届くようになった。08年からは同様なシステムが守備チームにも認められ、戦術やりとりはより進化した。
 さらに、93年からは、前のダウンが終了してから40秒以内にスナップすることが義務付けられた。つまり、プレークロックが40秒間となった。試合時間の短縮を図ると共に、審判のレディフォープレーのシグナルがなくなり、スナップ開始時が流動的になった。
 
オーディブル
 現在では、ノーハドルに限らず、体型に着いたQBが相手守備も見てオーディブルをするシーンは珍しくないが、その目的は状況で大きく異なる。一般攻撃でのオーディブルの目的は、危険回避である。ハドルで選択したプレーを警戒する守備体型を確認できた場合の、損失を避けるためのプレー変更がほとんどである。大幅な体型変更は想定しない。受身の対応である。
 一方、ノーハドル攻撃でのオーディブルは、明確な意図を持った攻撃的攻撃である。選手の能力や配置を確認して、その短所への攻撃を選択出来れば完璧である。得点、試合時間、ボールの位置、ダウン&ディスタンスで、とるべき攻守の体型、戦術の大枠は決まるのだが、その想定内での戦術のディテールがプレーの可否を決定する。

ロスリスバーガーの真価を引き出す
 決定機つまり試合終了2分前からの、ロスリスバーガーのパフォーマンスには定評がある。昨年のスーパーボウルはその典型だ。3Qまではブリッツに追われ、玉石混合の不安定なプレーを展開していた彼が、終盤に一転、冷静に入魂の逆転パスを投げ勝利に導くシーンを多く見てきた。
 彼の抜群の身体能力と集中力が発揮されるこのシーンに、欠かせない条件がノーハドル攻撃である。
 じつはロスリスバーガーはブリッツによるパスラッシュへの対応に好不調の波がある。持ちすぎ、無理投げ、狙いすぎも多く、被サック数も多い。そこで、バランスのとれたスプレッド攻撃体型をとり、ブリッツ&マンカバーが出しにくい、中立的なゾーンカバレッジ守備を引き出すのが、勝負所でのルーティンだった。
 ところが、終了直前にノーハドル攻撃での反撃を仕掛けると、守備選手の消耗を避け、前進を許すがTDを防ぐ、深部を厚くした、穴の少ない、ゾーン・パス・カバレッジ守備で対抗するチームが多い。いわゆるプリベント・ディフェンスである。ラッシュ3人のカバー4ゾーンカバレッジを引いてくれたりすると、ロスリスバーガーにとっては、願ったりかなったりの、完璧な舞台設定が出来上がるわけである。

過剰反応を引き出せ
 彼の長所は、広い視野、機動力とくに左右の動き、そして両刃の刃であるがポンプ・アクション、そしてWR、TEとの絶妙なコンビネーションである。
スナップを受けたら、時間を稼ぐために右(または左)へ大きく動き、ゾーンを変形させる、これが第一段階、これでフリーが出ない場合は、あるエリアに向けて大きなポンプ・アクション(擬似投動作)を行うのが第2ステップ。(ゾーンカバレッジをとる)全カバレッジ要員はその方向に反応するはずだ。仕上げとして、守備が過剰反応してフリーとなったエリア(またはそこに走り込むレシーバー)にパスを投げ込めば良い。
  猛練習によるスタミナと集中力を持つスティーラーズOLとロスリスの機動力があれば、3人ラッシュなら十分に4、5秒の時間を稼げるが、ボールを持ったポンプ・アクションはヒットを受ければファンブルの危険性も高い。去年のスーパーボウルでWRホームズへの決勝TDパスを投げたシーンでは、最初にショートのRB、次にミディアムのTEとポンプ・アクションを2度続け、ディープに走ったホームズへのカバーを奪っている。

 高度化したノーハドルの攻防。開幕第1戦は、上記のシナリオで見事にタイタンズを延長の末に下したスティーラーズだが、第2戦では攻撃的な守備前陣を持つベアーズにシナリオが完全に破られた。ベアーズは試合終了まで執拗にマンカバーとブリッツを繰り返しロスリスバーガーの動きを殺して、番狂わせの勝利をあげた。一方、第2週ジェッツと対戦したペイトリオッツは、新コーチのライアン指導のブリッツ守備を避けるために、試合序盤からブレイディがノーハドル攻撃を展開した(結局、ウェルカーの穴が大きく敗戦)。深化するノーハドルの攻防、連覇へ小さな疑問符がついたスティーラーズのノーハドル攻撃、終盤までに新たな進歩を仕上げてくるだろうか。

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