Bill or Bill

NFLを二分する二大学閥

Football galvanizer
Sadao Goto
(TOUCHDOWN PRO2009年8月発売号より転載)

スーパーボウルでのもう一つの戦い
 2001年以降のスーパーボウルから傑出した名勝負をあげろと言われれば、04年のペイトリオッツ32−29パンサーズ、05年のペイトリオッツ24−21イーグルス、08年のジャイアンツ17−14ペイトリオッツ、そして09年のスティーラーズ27ー23カーディナルスとなるだろうか。
 スーパーボウルはAFCとNFCの優勝チームが、チームの名誉そしてカンファレンスの誇りをかけて戦う、NFLの頂点を競うゲームである。とくに最近のスーパーボウルは唖然とするほど劇的な展開、壮烈な闘志が凝縮した試合が多いが、じつはフィールド上での激しい応酬の裏には、さらに大きな誇りをかけた戦いがあるからなのである。それは、コーチの名誉をかけた、フットボール哲学の戦争である。

NFLを二分する学閥
 政治とか経営に限らず、考え方や主義主張には、これだという完璧な正解はない。それぞれが自分の信じる考えを説き、賛同する仲間と共に一つの思考集団を形成して、発展させている。フットボールの組織作り、哲学、技術指導も同様である。フットボール学閥がある。
 NFL32人のヘッドコーチを、信奉する戦法戦術(フットボール哲学)を基準にすれば、3つのグループに区分出来るだろう。一つは、1980年代に完成させたフォーティナイナーズのビル・ウォルシュ・ヘッドコーチ(故人)の理論的チーム作りを信奉するグループ、対抗するのは同じ80年代に競い合ったジャイアンツのビル・パーセルズ・コーチ(現ドルフィンズ運営担当)が指導したメンタル重視の勝負哲学を学んだグループ、この2つがNFLを分ける二大学閥といっても良い。もう一つ、いずれにも属さない第三のグループがある。
 ウォルシュのコーチングは、彼の功績を象徴するウエストコースト攻撃でわかるように、理論派である。勘とか感情、別の表現ですればアナログな流れで判断、対応することが多かった戦術のメカニズムを解析して、図の上で計量化した(弟子であるダンジーは、この思考をカバー2守備に応用した)。正しく精確な理論を教え、それをスキルとして習得した選手は、理論の成果を勝利で体感して、チームとして選手として成長した。指導は、学生側に立ち、辛抱強い教師タイプといえそうだ。
 一方のパーセルズの哲学は、勝つための体力と気力を第一とする。極論すれば、状況に応じた複数の技術の学習より、一つを完璧に習得することを望むタイプだろう。失敗した選手の胸倉をつかみ、とことん原因と向き合わせる、厳しい指導で知られた。メンタル(知識)よりフィジカル(実際の行動)。しかし、決定的場面で頼れるプロフェッショナルを育てた。逆の表現をすれば、勝利至上主義。
 わかりやすくパス守備に例えるなら、QBにラッシュしてパスを封じるウォルシュ方式と、二度と捕球したくないと思わせるほどのハードタックルをWRに浴びせるパーセルズ方式、そのぐらいの違いがある。
 第三のグループは、上記2人の影響を深く感じないコーチたちである。
 一世を風靡した名将であるトム・ランドリー、ジミー・ジョンソン(以上カウボーイズ)、ジョー・ギブス(レッドスキンズ)といったカリスマ型は、個々のパーソナリティに頼るところが多く、あっという間に消え、この2つのフットボール学閥に収斂されてしまった。

名勝負を生むプライド
 21世紀に入ってから9回のスーパーボウルが行われ、うちAFC代表が7回、NFC代表が2回優勝した。AFCではペイトリオッツが3回、スティーラーズが2回、レイブンズとコルツが各1回。NFCはバッカニアーズ、ジャイアンツが各1回である。合計6チームが優勝している。
 この優勝チームを大別すると、パーセルズ派がペイトリオッツとジャイアンツ、そしてスティーラーズ、レイブンズ、コルツ、バッカニアーズがウォルシュ派である。優勝回数でいえば、パーセルズ派4回対ウォルシュ派5回である。
 もちろん、それぞれのコーチたちは、主たるメンタリティは2人から学び、それに独自の思考を組み込み、自身の哲学を確立しているので、これはあくまで流れと理解してもらいたい。しかし、スーパーボウルでの勝利は、自分の哲学を証明する最大の機会である。
 上記の名勝負のうち3試合は、3つのグループが対決した、威信をかけた試合だった。04年はパーセルズ派のビル・べリチックが指導するペイトリオッツと第3グループのジョン・フォックスのパンサーズが対戦、終了直前のFGでベリチックが辛勝した。05年のペイトリオッツ対イーグルスは、べリチックがウォルシュ直系のアンディ・リードと戦った。そして09年のスティーラーズ対カーディナルスは、ダンジーを通じてウォルシュの孫弟子となるマイク・トムリンが、パーセルズ直弟子のケン・ワイゼンハントと対決した。08年のジャイアンツとペイトリオッツは、トム・コフリン対ベリチックで、同じパーセルズ派のトップ争いだった。これはこれで激しい骨肉の争いとなった。
 最大派閥のウォルシュ派同士が対戦すると、裏の裏をかく展開も期待出来るが、特有の教義もあって、緩い試合内容になることもある。07年はその典型だった。
 今09年度の私のスーパーボウル予想はジャイアンツとペイトリオッツ、長男格のベリチックが、あのサプライズ敗戦の雪辱を果たすと予想した。
   
2009年度勢力分布
 今09年度NFLにヘッドコーチとして登録されたパーセルズ派は、直弟子であるビル・ベリチック(ペイトリオッツ)、トニー・スパラーノ(ドルフィンズ)、エリック・マンジーニ(ブラウンズ)、トッド・ヘイリー(チーフス)、トム・コフリン(ジャイアンツ)、ショーン・ペイトン(セインツ)、ケン・ワイゼンハント(カーディナルス)。孫弟子となると、コフリンの教え子に、ディック・ジャローン(ビルズ)、スティーブ・スパグニュオロ(ラムズ)。ベリチックの教え子に、ジョシュ・マクダニエルズ(ブロンコス)、ジム・シュワルツ(ライオンズ)など、合計11人がいる。
 一方、ウォルシュ派は、レックス・ライアン(ジェッツ)、マイク・トムリン(スティーラーズ)、ジョン・ハーボー(レイブンズ)、マービン・ルイス(ベンガルズ)、ジェフ・フィッシャー(タイタンズ)、ジム・コールドウェル(コルツ)、ゲイリー・キュービアック(テキサンズ)、ジャック・デルリオ(ジャガーズ)、ジム・ゾーン(レッドスキンズ)、レイ・チルドレス(バイキングス)、アンディ・リード(イーグルス)、マイク・マカシー(パッカーズ)、ロビー・スミス(ベアーズ)、マイク・スミス(ファルコンズ)、ラヒーム・モーリス(バッカニアーズ)、ジム・モーラ(シーホークス)と16人。

 第3グループは、ウェイド・フィリップス(カウボーイズ)、ジョン・フォックス(パンサーズ)、マイク・シングレタリー(フォーティナイナーズ)。ジム・ターナー(チャージャース)、トム・ケイブル(レイダース)の5人である。
(なお、上記のグループは各コーチのコメントや主たる経歴をベースに区分けした。本人が自覚しているかは確認していない)

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