想定内逆転

第43回SB(補足1)

Football galvanizer
Sadao Goto
(TOUCHDOWN PRO2009年2月発売号より転載)

 米国内で1億5千2百万人が見た第43回スーパーボウル、米国テレビ視聴率は最近10年間では4番目の42・0%、だった。スポーツはやはり内容次第だ。
 この2、3年のNFLは、単なるゲームの枠を凌駕している。
 予想出来ない展開、アップセットが連続した2008年度シーズン、最後に迎えた第43回スーパーボウル(SB)も、英雄の人生を60分間に凝縮したような濃厚な展開があった。
 SB史上最多タイ記録である7度目の出場の、AFC北地区の強豪ピッツバーグ・スティーラーズとリーグ結成時のメンバーでありながらSB初出場のNFC西地区の名門アリゾナ・カーディナルスが、2月1日、フロリダ州タンパで対戦した。
 試合は第4Q一気に過熱したが、終了35秒前、スティーラーズQBロスリスバーガー(26歳)がWRサントニオ・ホームス(24歳)に再逆転の6ヤードのTD(タッチダウン)パスを決めて、27対23でSB史上最多の6回目、そして最近4年で2回目となる優勝を果たした。残り35秒での逆転TDパスといえば、TEタイリーのヘルメットキャッチで有名な昨年のSBと同じである。あの時は、ジャイアンツQBイーライ・マニングがWRバレスにパスを通した。残り35秒は伯仲の試合でのキーワードになっていくのだろうか。

勝負を決めた『経験』
 フットボールゲームとしては、完璧だった。この2チームが再戦しても、これ以上の筋書きはない。誰もが納得して、誰もが満足したはずだ。
 勝敗を分けたのは経験の差だろう。経験を構成するのが、状況判断力とそれを実行するメンタルとフィジカルな能力と理解すれば、つまりは総合力の差であろう。選手個々の能力もあるが、70年代からリーグの頂点で大試合を経験してきたスティーラーズにはそのノーハウが蓄積されていた。
 20対23と逆転された、残り2分37秒からのドライブでみせた集中力にそれが反映されていた。78ヤードを8プレー、2分2秒で進んだ。第1プレーで痛恨のホールディング(反則)が出たが、その後はラインは完璧なブロックの受け渡しだったし、ロスリスバーガーが思い切ったフットワークで時間を稼いだ。とくに直前に「ボールを投げて」とコーチに直訴したWRホームズは、4回のパスを受けドライブの大半である73ヤードを進み、MVPに選ばれた。

カーディナルスの仕掛けが墓穴を掘った
 NFLでは、終了前2分間の集中力が勝敗を大きく左右する。絶対王者といわれたペイトリオッツは、ツーミニッツ守備でそれまでの120%増しの鋭い動きをみせ反撃の目をむしりとっていた。最終2分間は攻撃だけでなく、守備にとっても勝負どころである。
 しかし、この試合では終了直前に、完璧だったカーディナルス守備の動きが僅かながら鈍った。それなりの理由がある。覚悟の墓穴ともいうべきだろうか。じつは、コイントスで勝ったカーディナルスだが、後半のレシーブを選択したのだ。7点の劣勢予想のカーディナルスが、後半に勝負と決め、得意の攻撃を前半は封印する勝負に出た。後半見事な攻撃で逆転したのだから、その読みは正しかった。
 しかし、スティーラーズにはこの仕掛けを逆手にとる経験があった。前半からパワーを前面に出したボールコントロール攻撃を重ね、カーディナルス守備の体力を奪った。低評価された怒りからか攻撃チームには鋭さがあった。速い左右のラッシングで、その後のプレーアクションへの環境も整えた。負傷上がりWRウォード(の早めの活用も出来た。5分15秒をかけた、開始ドライブはカーディナルス守備が頑張ってFGに終わったが、次のドライブは7分12秒かけてTDを奪った。この試合のタイム・ポジションは、スティーラーズが33分1秒と圧倒したが、前半だけで17分31秒と試合を支配してカーディナルスの消耗を誘い、それがラスト2分の逆転を可能にした。カーディナルスからいえばベストをつくした上での地力負けだろう。

3秒72
 試合残り42秒、敵陣6ヤードでの第2ダウン、6ヤード。スティーラーズの逆転TDパスは芸術的だった。ロスリスバーガーがエンドゾーン右隅に、(ロブでなく)鋭いハイボールを投げ、左から走りこんだWRホームズが、サイドライン直前で極限まで全身を伸ばして捕球した。つま先から指先まで、すべてを鋭敏な神経が支配していた。3人の守備バックにはなす術はなかった。この試合のロスリスバーガーのパッサー評価係数は93・2、前回SBより大幅に向上して、名QBといわれたブラッドショーと並び評価された。
 QB、WRの動きは絶品だったが、このパスの最大の功労者は攻撃ラインだった。左スロット、ワンバックのショットガン体型で、一方守備はダイムバック、ラッシュは4人で対応した。試合後、ロスリスバーガーはこのプレーを「第一のターゲットは(右フラットに走った)RBムーアだったが、カバーされ、次の(モーションからショートミドルにカールした)FLウォードも空いていなかったので、第3ターゲットのホームズに投げた。攻撃ラインに感謝している」と振り返った。ウォードへボールをリリースするまでの時間は、手元の時計で、3秒72もあった。ロングパス並みの時間を守りきった攻撃ラインの集中力が、ゲームプランの根底を支えていた。

ハリソンの100ヤードリターン
 ピッツに勝利を呼び込んだのはやはり守備、攻撃的なビッグプレーだった。
 前半の最終プレーでみせた、LBジェームズ・ハリソン(30歳)の100ヤードのインターセプトリターンは凄いプレーだった。まさしくワンランク上の守備だった。前半残り18秒、1ヤードまで攻め込まれた第1ダウン。左SBに入ったボールディンへの短いパスを、LOSでパスラッシュの態勢にいたWLBハリソンが短く戻り、胸の中でインターセプトした。結果として、ルボウDC(守備コーディネーター)のゾーンプリッツと同じ効果となった。すごい対応力は、それからだった。ハリソンがボールを受けに来たNBタウンセンドを振り払うと、タウンセンドはすぐに前方に走りブロックに向かった、右サイドランを20ヤード走った時点で、ブロッカーは6人も揃っていた。最終プレーだから、デッドになれば前半終了となり、得点は望めない。それを全員が理解して、ハリソンをサイドラインから守り、ハリソンがまさに入魂の走りをみせた。あのボディバランスと敏捷性は練習で鍛え上げたものだ。185センチと小柄、NFLEなどで苦労した彼だが、今季は16サックでリーグ最優秀守備選手と超一流の仲間入り、それでもキッキングにも登場する責任感と闘争心が人望を集めている。カバーしたワーナーをやんわりとブロッカー2人が飛ばし、あと1ヤードでは、100ヤード以上戻ったWRフイッツジェラルドとブリーストンのタックルを跳ねのけた。ハリソンは、第4Qのフイッツジェラルドの64ヤード独走TDでも、離されずに追走したガッツの持ち主だ。(プロボウルの練習時に、なにかモットーありますかと間抜けな質問をしたら、「チームのためにプレーすること」と真面目に応えてくれた)。このインターがなければ、FG3点とTD7点が加減され、最終スコアはカーディナルス26対スティーラーズ20と勝敗は逆転する。
 前進距離はスティーラーズは292ヤード、カーディナルスが407ヤードであるから、守備対攻撃の対決は、カーディナルス攻撃の圧勝ということになる。しかし、ハリソンの100ヤードを足し、反則罰退の差である50ヤードをカーディナルスから引けば、392ヤード対357ヤードとなり、27対23の得点に比例した数字になる。

第二次黄金期か
 マイク・トムリン・へッドコーチ(36歳)はスーパーボウル直前に最優秀コーチに選ばれ、史上最年少そしてダンジーに継ぐ2人目のアフリカン・アメリカン・コーチとしてSBを制した。試合後の記者会見を「まず、カーディナルスのコーチ関係者に脱帽したい」のコメントで開始したが、逆転された時の心境を聞かれ、「スティーラーズの試合はすべて60分間で勝敗が決めている」と声を荒げた。確執が話題となったワイゼンハント・カージナルズコーチとの試合後の挨拶は、素っ気無い一言と握手だけだった。
 試合後、携帯電話にオバマ大統領から祝福電話が入ったスティーラーズのオーナー、アート・ルーニーは、「ピッツバーグの後援者たちと、大統領に感謝したい」とかすれた声で応え、これで6個目の優勝杯を獲得したがとの問いにも、「(表彰棚には)まだ十分に空きスペースがある」と笑顔を返した。昔から知るナイスガイだが、政治色を出すとは意外だった。
 ホームズをスワン、ウォードをストルワース、ロスリスバーガーをブラッドショーと並べて、70年代の黄金期と並べて報道するメディアが増えた。守備が基本で、ここ一番に強いチームカラーは受け継がれているが、比較するには、もう1、2年必要だろう。(続、次号でカーディナルス篇の予定)
 
来シーズン11人の新コーチが誕生する。
 せめて名前だけでもリストにしたい。ジム・コールドウエル(コルツ、前コルツ・アソシエートヘッドコーチ)、マイク・シングレタリー(49ナース、前49ナース臨時ヘッドコーチ)、ラヒーム・モリス(バッカニアーズ、前バックスDC)、レックス・ライアン(ジェッツ、前レイブンズDC)、トム・ケーブル(レイダース、前レイダース臨時ヘッドコーチ)、ジム・モーラ(シーホークス、前シーホークス・アシスタント・ヘッドコーチ)、ジョッシュ・マクダニエル(ブロンコス、前ペイトリオッツOC)、トッド・ヘイリー(チーフス、前カーディナルスOC)、エリック・マンジーニ(ブラウンズ、前ジェッツ・ヘッドコーチ)、スティーブ・スパグニュオロ(ラムス、前ジャイアンツDC)、ジム・シュワルツ(ライオンズ、前タイタンズDC)。個人的注目は、シングレタリー、マクダニエル、ヘイリー、スパグニュオロ。

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