タンパに奇跡はなかった

第43回スーパーボウルレポート

Football galvanizer
Sadao Goto
(TOUCHDOWN PRO2009年2月増刊号より転載)

頑張れ、スーパーボウル

 前日になって陽光を取り戻した、フロリダ州タンパ。ちらりと覗いてみた繁華街イーボウシティやピータースバーグのドンカルロスホテルにも、やっと応援客の姿が目立ち始めた。見た目では4対1の割合で黄色と黒、スティーラーズの応援が多い。熱気に溢れたというより、通いなれた会場への常連客の風情である。100年に一度とマスコミが連呼する世界的不況下のアメリカ、スーパーボウルにも入場券の暴落やTVCMの売れ残りなど、初めて接する暗い話題が出た。昨日のグッデル・コミッショナー記者会見では不況対策への質問がほとんどなかったが、今回の不況は耐えてやり過ごすしかない天災と見る世論を反映したかたちだろう。絶命の危機を大逆転する筋書きをフィールド上で実現出来れば、日常生活での活性化にも寄与するのだろうが…。タンパなら、それが出来るかもしれない。

ペンギンが飛ぶ、タンパでのサプライズ

 極めて私的だが、タンパには非日常性な思い出が多い。今でこそ、日本人メジャーリーグ選手の春季練習場として知られたが、初めて訪れた32年前には、私を含めほとんどの日本人が初めて耳にする地名だった。
 バッカニアーズが創立した76年、初シーズンに備える夏合宿を訪問して、その酷暑と高湿度に驚いた。地元テレビ局に逆取材されたが、「練習が終わったあとに、せめてエアコンのきいた部屋でお願いします」と話した事前対応のシーンが放映され、地元のアナウンサーが高湿気に自信があると妙なコメントをつけていた。普通に町を飛び回るペリカンを見たのも初めてだった。

 タンパで初開催されたスーパーボウルは、84年の第84回だった。RBマーカス・アレンが360度の方向変更をして独走TDをきめ、LAレイダースが38対9でレッドスキンズを下した。

 しかし、タンパのスーパーといえば、91年1月27日の第25回だろう。アメリカ全体が緊張につつまれた湾岸戦争開始直後だった。中止を望む声もあったが「米国が守るべきなのは、スポーツを自由に楽しめる日常生活である」との大統領の声明で、全米が星条旗を振り回す中、49ナースを下したジャイアンツとショットガン攻撃を導入したビルズが出場した。曇天の街角には砲口を開いた装甲車が並び、スタジアムに入退場するパトカーすら検問する厳戒態勢だった。ホイットニー・ヒューストンが国歌を歌い、47ヤードのFGをKノーウッドが外して、20対19でジャイアンツが優勝した。ジャイアンツQBホステットラーが指揮した40分33秒のボールコントロール攻撃に、米国が手を握り締めて見入った。

 3回目、そのちょうど10年後の、01年第35回も強烈な印象が残る。破壊的な守備力でレイブンズがNFLの頂点に立った。プレーオフでの守備の重要性は言われていたが、守備力だけでスーパーボウルを制したのは、レイブンズが初だった。ペップトークで鳥肌が立ち、きしむようなタックルに眉をひそめながら、LBレイ・ルイスの圧倒的な存在感に圧倒された。喪失距離152ヤード、5ターンオーバーを奪い、4サックして34対7でジャイアンツを下した、完璧なディフェンシブフットボールだった。

 そして今09年、バラク・オバマが黒人として初の大統領に就任して12日後の、2月1日に第43回が開催される。

またもアンダードッグ

 対戦は誰もが予想しなかった、ピッツバーグ・スティーラーズ(AFC優勝)対アリゾナ・カーディナルス(NFC優勝)となった。最多出場の強豪対初出場の名門。裏は奥深く、表ではスリリングな攻防といった、画期的な展開が期待したい。

 スティーラーズは最多タイ7回目の出場、過去5勝(1敗)も最多タイ記録。一方NFL結成メンバーで89年の歴史を持つカーディナルスは、リーグ優勝はあるが、スーパーボウルへの出場は初めてである。

 スティーラーズは守備(リーグ1位)、カーディナルスは攻撃(リーグ4位)とチームの主力は対照的である。したがって全NFL級である中心選手は、スティーラーズはSポラマル、LBハリソン、ウッドリー。カーディナルスはQBワーナー、WRフィッツジェラルド、ボウルディン、ブレストンと攻と守に分れる。

 2年前に外様の守備コーディネーター(DC)トムリンがスティーラーズのヘッドコーチに任命され、攻撃コーディネーター(OC)で次期へッドコーチ確実といわれていたワイゼンハントは押し出されカーディナルスに移った。3年後に実現した両者のスーパーボウル対決の底辺には、当時の確執があるとされる。

 要約すれば、RBパーカーのラン、QBラスリスバーガーからWRウォード(右膝負傷)、ホームズへのパスと均衡はとれているが中位の攻撃であげた得点を、超一流の激しい守備で守り時には加点していくのがスティーラーズのチーム力。カーディナルスは3人の千ヤードWRへの一流のパス攻撃であげた得点を、プレーオフで力をつけた守備、全19試合同一メンバーが先発した攻撃ラインのチームワークで守り切るのが
基本スタイルだろう。辛目に評価すれば、守備得点で勝ったスティーラーズ、ワーナーの安定度次第のカーディナルスとなる。

 しかし、マスコミや公式賭博ディーラーは、またもカーディナルスを7点差のアンダードッグ(劣勢)と格付けした。プレーオフ全3試合で劣勢予想を覆したカーディナルスだが、初の大試合でも、無心のパフォーマンスを展開できるのか。

カーディナルスがアップセットするために

 キャリア(コーチ英才教育)上がり、しかも強気だが王道勝負を挑むカーディナルスのヘイリーは、攻撃のベースをウエストコースト攻撃に置いている。スティーラーズの34は対応しにくい守備体型の一つだが、去年の対戦の実績(21対14)を生かし、WRボールディンへの4ヤードパスの脅威を仕掛けの先陣としなければならない。同じ思考で、RBジェームズまたはハイタワーのランも欠かせない。それが構築出来れば、超大型フィッツジェラルドは手のつけられない効果を発揮だろう。片側3人レシーバー(バンチ体型)で、反対側にフィッツを位置した場合にスティーラーズCBアイク・テイラーどう対応するのだろう。ヘイリーは要所でのスクリーンパス、ドロー、フリーフリッカーの使用が上手いが、スーパーではすべてを布石に使用するだろう。

 守備では、カーディナルス一筋のSSエイドリアン・ウイルソン、OLBダーンズビーが核になるだろう。新人CBロジャ−ズクロマティーは実践での鍵となる。プレーオフ3試合で7インターセプトはフロックだろうか。

 今週の記者会見で、ワイゼンハントが「チームにはいつも通りの練習、いつもどおりの生活リズムをさせている」と強調したのが、印象に強く残っている。いつも通りに出来るか、カーディナルス。

 一方、スティーラーズのルボウDCは熟練だが、たまに大ポカというか闘争心が行き過ぎる場合もある。コーチオブザイヤーになったトムリンが、現役時はWRで、攻撃面に関与してくると話はこんがらかるのだが。

(現在1月31日、午後11時41分、あと18時間後にキックオフだ。ここまでの文章を東京のタッチダウン編集部にメールしておく)。

カーディナルスの快敗

 快試合だった。

 レイモンド・ジェームズ・スタジアムのほぼ8割を埋めたピッツの応援も、凄まじい歓声でそれに応えたカイーディナルスのファンも、全員が満足したに違いない。壮烈な展開の一挙手一投足に明確な意図が込められ、全米の目と心はフィールドに釘付けにされた。

 試合終了後、人ごみをかきわけて短い言葉を交わしたトムリンとワイセンハントだが、2人のヘッドコーチの競い合いはこれからが本番、今後のNFLをリードしていくだろう。

 勝負の鍵となったのは、勝利への執着心。それは、栄光より、敗戦が与える落胆のつらさを知る、歴戦の強豪だけしか持てない勇者への羅針盤なのかもしれない。

 試合を記憶したい、記録したい。

 午後6時、コイントスで勝ったカーディナルスがキックオフを選択して、フィールドは一気に緊迫感に支配された。攻撃のチームが先制の機会を捨て、守備を選らんだ。この明白な挑戦状に期待と共に不安を覚えたが、的中したのは不安だった。スティーラーズの攻撃チームは、選択に込められた意図のすべてを塗りつぶすように、完璧な前進を開始した。怒りを集中力の変えてQBロスリスバーバーはWRホームズ、TEミラー、RBパーカーを鋭く走らせ、テンポ良くパスを投げ込み、18ヤードFGで先制。さらに次の攻撃でも完璧なボールコントロールで11プレーで69ヤード前進、今度はきっちりとRBラッセルのTDに結びつけた。

 第1Qを僅か1ポゼッション13ヤードの押さえらカーディナルスは、第2Qに入り、一気にテンションをあげて、スティーラーズのスピードに対抗した。フィッツジェラルド、ボウルディンを奥に走らせ、その手前、アンダーニースに3人目のWRであるブレストン、RBジェームズを走り込ませて、QBワーナーが的確なパスを通した。ボウルディンの中間距離パスを織り込み、TEパトリックのTDパスに結びつけ、7対10。

 さらに、前半終了2分前、DTロビンソンがパスを叩き、LBダンズビーがインターセプトして、敵陣34ヤードの絶好の機会を得た。ここでデコイに徹してきたフィッツジェラルドに初めてパスを通し、チームの気持ちが盛り上がった、敵陣5ヤードの第1ダウン。前半残り18秒、押し込まれたスティーラーズ守備が勝負に出た。ルボウOC得意のゾーンブリッツだった。LOSに上がっていたOLBハリソンが一歩前に踏み込んで反転、左から浅く内側に走ったボウルディンの前に下がって、どんぴたりのイ ンターセプト。そのまま素早くサイドライン沿いに上がり、100ヤードを走りきった。183センチと小柄、NFLヨーロッパなどで下積み経験のあるハリソンならではの渾身のリターン。100ヤード以上追走して、エンドゾーン直前で最後のタックルを仕掛けたのがフイッツジェラルドとボウルディン、2人のエースWRだったのも、このプレーの密度を高めた。流れが大きくスティーラーズに戻り、前半は17対7。

 カーディナルスが、後半レシーブの選択した意図は、温存したエースでのスピードを生かすことだったのだろう。意気込みすぎたのか、第3Qは、カーディナルスの不器用な試合運びが目立った。ワーナーがインターセプトされた判定はチャレンジで覆したが、その直後の相手ドライブでは反則を連発させた。CBクロマティー、LBダンズビー、そしてホールダーへ不正なラッシュ。16プレー、8分39秒の前進を許し、スティーラーズが21ヤードのFGに結びつけた。20対7と点差が開き、残り時間が大きくそりとがれた。

 第4Qに入ってもカーディナルスの心が折れなかったのは、36歳のベテランQBワーナーの存在が大きかった。明らかな捕球ミスにも肩を叩き、集中力を切らせなかった。そして、第4Q3分30秒、それまで僅か1捕球のフィッツジェラルドがドライブの先頭に立った。自陣13ヤードからワーナーが8連続パス成功を重ねたが、仕上げのTDは、フィッツジェラルドへのエンドゾーンのジャンプボールだった。密着カバーしたCBテイラーは落下地点にすら予想出来なかった。14対20。ここからモメンタムは一気にカーディナルスへ移った。好パントで2ヤードに押し込めた好機には、エンドゾーン内の反則を誘いセフティーを奪い、差が4点と詰まった。直後の攻撃で練りに練った大技が出た。自陣36ヤードからの、第2ダウン10ヤード、右FLの位置からシャロークロスでテイラーを振り切ったフィッツジェラルドは、ディープ2の中央に切れ上がり、パスを捕球すると一直線にエンドゾーンに走りこんだ。64ヤードのTD、残り2分37秒、23対20、ついに逆転した。

 スタンドの真紅色が狂喜して飛び跳ねた。

 スティーラーズはこれを、試合終了35秒前に、再逆転した。8プレー、2分2秒、78 ヤードのドライブ。

 ロスリスバーガーの的確な判断、時間を稼ぐ足、崩れても最良のタイミングを感じとる能力が中核にあった。MVPに選ばれたWRサントニオ・ホームズは、14、13、40、そして逆転となる6ヤードのTDパスを捕球した。

 スタンドを埋めた黄金色の大集団は、なにかほっとしたように、整然と応援賛歌を大合唱した。最終スコアは、27対23。これでスティーラーズはスーパーボウル史上最多の6勝(1敗)となった。勝敗は逆だが、偶然にも予想と同じ点数となった。

 勝負を分けたのは、ターンオーバーと反則だろうか。スティーラーズはリターン距離で100ヤード多く、罰退は50ヤード少なかった。攻撃獲得距離はスティーラーズ292ヤード、カーディナルス407ヤードとなり、前評判どおりの数字だが、上記2つの数字を足し引きすれば、スティーラーズ392ヤード、カーディナルス357ヤードとなる。

 試合後の記者会見で、残り2分37秒に逆転された心境を問われたトムリンは、目を大きく開いて、「フットボールは60分でするゲーム、気にはしなかった」と強気で受け流した。しばらくは、彼から幾つかの波紋が広がりそうだ。

 勝負の鍵となったのは、勝利への執着心。それは、栄光より、敗北が与える落胆のつらさを知る、歴戦の強豪だけしか持てない勇者への羅針盤なのかもしれない。

(2009年2月2日、午前6時、タンパ)

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