第43回スーSHOCK THE WORLD
ショック・ザ・ワールド!

世界が驚く!第42回スーパーボウルの焦点

Football galvanizer
Sadao Goto
(TOUCHDOWN PRO2009年1月発売号より転載)

忘れられかけたチーム
 ハートをくすぐられる快感、大声で笑い出したい気分だ。カーディナルスの飛躍は、それほど愉快で楽しい。このままいくとNFLの序列は、宇宙空間のような配列になるかもしれない。
  弱小チームの代名詞だった、NFC西地区のアリゾナ・カーディナルスが初のスーパーボウル出場を決めた。夢にすら見なかった夢をついに実現した。2009年2月1日(日)フロリダ州タンパで開催される第43回スーパーボウル。対戦相手はAFC優勝のピッツバーグ・スティーラーズ、7度目の出場で、6度目の優勝を狙う強豪中の強豪である。
 カーディナルスの原動力は、圧倒的なパス攻撃だ。豪快かつ完璧なラリー・フィッツジェラルドを核に、鋭いアンクワン・ボウルディン、精確なスティーブ・ブレストンと豪華な3人WR陣に、37歳のベテランQBカート・ワーナーが26本のTDパスを投げ込み、パス獲得距離はNFL2位、得点も3位、11位の守備を引き合いに出すまでもなく、何処から見ても攻撃のチームである。
 忘れられかけたチームの開幕前の評判はいつもどおり、AFC西地区中位とほどほどだった。それが、全勝のビルズに完勝して戦力を固め、10月、11月で地区首位に立ち、地区全体の低迷も味方して、じつに33年ぶり、75年以来の地区優勝を果たした。レギュラーシーズン9勝7敗は地区優勝中の最低、誰もがそこが終着と思ったが、それまでが助走だった。圧倒的な劣勢予想のプレーオフ試合に3連勝、創立90年目にしてスーパーボウルを現実とした。選手権杯であるハラス・トロフィーを握った、77歳のビル・ビドウエル・オーナーは「絶対にこの日が来ると信じていた、しかし」と枯れた声で続けた、「それが何時なのか知らなかった」。

アメリカで最も不幸だったチーム
 アメリカで最も不幸だったチーム。1920年創立に参加したNFLオリジナルメンバーだが、その歩みは遅々として、時には惨めだった。シカゴで生れたが、ベアーズに追われる様に60年にはセントルイスに移動、88年には遠く西海岸に近いアリゾナ州テンピに本拠を移しフェニックスと名を変え、94年にはさらに西に動いてアリゾナと四度目の改名をした。02年の地区編成変えでは、名門の揃うNFC東地区を追われ西地区に移動した。
 成績は低迷した。46年にNFL選手権に優勝して以来、全米優勝はない。遠く故郷を離れたチームは、赤く荒涼としたデザートで、紅冠鳥は飛び立つ意欲すら喪ったように見えた。それが、一気に飛翔した。NFC選手権でイーグルスを32対25で下し、荒涼に立つ超近代的なスタジアムは歓喜の絶叫、熱狂の嵐となった。

初出場の壁
 米国では、スーパーボウルは国民的行事という表現を凌駕する巨大な祭事となっている。今年1月20日、2百万人が集合して話題となったオバマ大統領就任式、そのテレビ中継に全米が注目して、視聴率は25・5%、視聴者数は3千8百万人を記録した。スーパーは2年前のシブい対戦の第41回(シコゴ対インディアナポリス)でも42・7%、1億3千4百万人がテレビ観戦している。異文化異人種が混在する米国で、2億の国民がひとつの価値観を共有するのは、スーパーボウルしかありえない。

 スーポーボウル初出場を前に、カーディナルスのケン・ワイゼンハント・ヘッドコーチは、7点のアンダードッグ(劣勢)とのマスコミ予想を「騒がれるより、選手、スタッフが試合に集中しやすい」と受け流した。事実、プレーオフではつねにアンダードッグだった。米紙を調べ直すと、ワイルドカードのファルコンズ戦では2点の劣勢予想を30対24、ディビジョナルのパンサーズ戦では10点劣勢を33対13、選手権のイーグルス戦では3点差の敗北予想を32対25とひっくり返した。
 しかし、スーパーの熱気は尋常ではない。熱気、歓待、メディアの過熱に、初出場チームは平常心を失いがちだ。過去42試合に出場した26チームを見ると、初出場では8勝18敗と大幅に負け越している。スーパー初期は初出場が多いので対象から外し、最近20年間の初出場チームの成績に絞り込めば、出場8チームで僅か2勝しかあげていない。勝率25%だ。大丈夫か、カーディナルス。

スーパーボウルを制するのは守備、なのか
 もう一つ、カーディナルスを不安にさせる定説がある。プレーオフにおける、守備主力チームの優位性だ。攻撃には失敗がつきものだが、安定した守備で点を許さねば負ける確率はきわめて低くなるという、きわめて的中確率の高い見方である。最近20年間の初出場で勝利をあげた2チームは、01年第35回のレイブンズ、そして03年第37回のバッカニアーズ。レイブンズはリーグ3位、バッカニアーズは1位の、守備のチームだった。
 攻撃は4位だが、一方守備は12位と並みの力しかないカーディナルス。僅差をボールコントロールして逃げ切るために不可欠なラッシュ攻撃もリーグ最下位である。大丈夫か、カーディナルス。

新時代を開くサイドライン
 最近のNFLは神がかり的に面白い。
 第43回も手を打って喜ぶストーリー性に溢れるが、コーチの話しは書き逃せない。
 時代をステップアップさせる、コーチ陣の対決。俗世に溢れる「変化」ではない、「進歩」をリードする2人である。
 就任2年目にしてチームをスーパーに導いた2人、ワイゼンハント(46歳)とスティーラーズのマイク・トムリン(36歳)は、因縁の対決と囃される。3年前、スティーラーズを15年間を率いたビル・カウワーが引退した。当時スティーラーズのOC(攻撃コーディネーター)をしていたワイゼンハントが次期ヘッドコーチと誰もが思っていた。彼はジョージア工科大でTEとHBをプレー、85年ドラフトされNFLファルコンズに入団、9年間選手生活を続けた後に、大学コーチ経験を経て、97年NFLレイブンズのアシスタントに就任、ブラウンズ、ジェッツを経て、01年カウワーのスティーラーズにTEコーチとして入団、04年にはOCとなり、06年の26年振りのスーパーボウル優勝に多大な貢献をしていた。ところが、チームはバイキングスでDC(守備コーディネーター)1年目だったマイク・トムリンをコーチに指名した。ワイゼンハントはスティーラーズを出て、請われてカーディナルスのヘッドとなった。誰もが驚いた人事だった。チームとしては、伝統の守備重視と、長期的なチーム育成を鍵にして、優秀なウイリアム&メアリー大卒であり守備には定評の若い(当時35歳)トムリンを選んだのだろうが、ワイゼンハントには割り切れない気持ちが残っただろう。
 選手権の対イーグルス戦、カーディナルスのサイドラインで、OCトッド・ヘイリー(41歳)とWRボウルディンが激しい言い争いをしたシーンが記憶に残っている。肩負傷のボウルディンの起用をめぐる口論だろうが、ワイゼンハントは良くあることと不和説を否定した。ヘイリーの指導は歯に衣を着せない。それは、彼がコーチとして最も重視する、選手ととことん向き合う姿勢から来ている。彼はこれをビル・パーセルズから学んだ。ヘイリーは大学、プロ共に選手としてプレー経験はない。日本風にいえばキャリア、純粋理論派である。フロリダ大、マイアミ大で学び、30歳でいきなりパーセルズのコーチするジェッツに攻撃アシスタントとして入った。ベルチック、クレネル、ワイズ、グローといったそうそうたるスタッフが揃っていた。そこで、正論を選手にぶつけるパーセルズの姿勢に共感した。同期入団に、あのエリック・マンジーニがいると書けば、パーセルズの指導の凄さが伝わるだろう。マンジーニも大学、プロのプレー経験のないキャリア組だ、パーセルズかベルチックどちらの選択か知らないが、この時期にコーチの英才教育を開始した先見性には頭を下げたい。ジェッツで4年、ベアーズで3年過ごした後、04年再びパーセルズに呼ばれ、3年間カウボーイズのパッシングコーチを務めた。ここで、OCだったシーン・ペイトンと出会い、親交を深めた。イーグルス戦でTDとなった、フリーフリッカーはペイトン考案の『フィリースペシャル』を母体としてプレーだそうだ。ワーナーをスタートQBにした慧眼もある。

 プレーオフに入って出色の進歩をみせた守備を率いるのが、DCクランシー・ペンターギャスト(40歳)、じつは彼もキャリア、大学、プロでプレー経験はない。アリゾナ大出身だが、95年無名の彼をNFLコーチに受け入れたのは、ジェフ・フィッシャー(当時ヒューストン、現テネシー・タイタンズ)だった。話が長くなるので、以後は、また次の機会に。

起こせ、大アップセット
 スティーラーズには、QBロスリスバーガー、LBハリソン、SSポラマールと中核にタレントが揃う。不安材料は、プレーオフに入ってからRBパーカーが走れないことだろう。ライン中心部が負傷もあって弱い。WRウォードが膝を痛め、出場に支障があるとしたら、大幅にゲームプランが変更になる。地力的に見れば、27対20でスティーラーズが最も一般的なシェルダンのオッズに近い数字になる。
 しかし、サイドラインの誇り、アリゾナ市民とバドウエルへの感謝、そして今季全試合同一先発で通したOLのツゥギャザー性と、SSエイドリアン・ウイルソンの献身性に敬意を払って、27対23でカーディナルス優勝を期待しよう。 昨07年第4週に、この対戦は実現しており、ピッツの終盤の追い上げをかわしてカーディナルスが21対14で勝ち、トムリンに初敗戦を味あわせた。もう一つ蛇足、攻撃チームで最近スーパー優勝をとげたチームは2つ、QBマニングがいる07年41回のコルツ、それと00年第39回のラムス。もちろんラムスには、現カーディナルスのQBワーナーがいた。(カーディナルスが勝ったとしても本誌的には大アップセット(番狂わせ)と表現するので、その点はご理解を頂きたい)

back