ディオン・サンダース越え

アントニオ・クロマティー、史上最高へ

Football galvanizer
Sadao Goto
(TOUCHDOWN PRO2008年5月発売号より転載)

 予定通りの、攻守ラインが主役のドラフトが終り、そして、シーズンへのカウントダウンが始まった。
 今の私的な関心からだけいえば、やはり守備から始めたい。FSリード、SSサンダースで最後尾を固め、賢いベイリー、そして鋭いクロマティーをCBに入れ、贅沢だが、サミュエルをニッケルに起用すれば、楽しいセカンダリー陣になるだろう。


 今年最もスリリングなNFL選手を1人上げろと言われれば、文句なくCB(コーナーバック)アントニオ・クロマティー(サンディエゴ・チャージャース、3年目、24歳、FSU)だろう。
 まったくの無印から、鋭敏かつダイナミックなスピードで、2年目の昨シーズン一気にNFLトップに躍り出た。
 「俺が見た選手の中では文句なく最高のアスリートだ」と名LBレイ・ルイスがその能力を保証したが、尋常でない記録を残した。インターセプトは10回でリーグ1位、あのペイトン・マニングから1試合で3インターセプト(さらにプレーオフで1回)を記録した。ファンブルリカバーTDを1回、インターセプトリターンTDを1回、さらにミスドフィールドゴールリターンTDを1回。なかでも記憶に残るのは11月4日の対ヴァイキング戦での、FGリターンだろう。自エンドラインぎりぎりで失敗したFGを捕球した彼は、一瞬間をおいてからリターンを開始、広いストライドで右サイドライン沿いを走り抜けた。NFL史上最長プレーとなり、記録は109ヤード。正確には109ヤード3フィート11インチだそうだ。FGトライなのでキックチームのほとんどが守備ラインであることも有利だった。インターTDもホールディングの反則で1つ取り消されている。シーズンのほぼ半分(7試合)をバックアップだった彼がこの記録を達成した。1年目の前年は、スペシャルチームまたはCBでの交代出場しかない。

 WRにぴったり密着出来るスピード、確実なポジショニング、優れたサイズ(6フィート2インチ、205ポンド)、とくに反応の早い長いリーチがある。その運動能力の高さはフィールドの滑らかな動作からもスタンドに伝わる。元カウボーイズの名Sダレン・ウッドソンもルイスと同じように、「見た選手で最高の能力」と評価するが、天才CBディオン・サンダースの共にプレーした彼の言葉は重みが違う。
 その速さから『DBをプレーするWR』と米国メディアは異名をつけたが、フロリダ州立大で左膝負傷する前には40ヤード走4秒23を記録した。NFLコンバインでも4秒37を残した、並の快足ではない。

 春のドラフト直後に、クロマティーの話題を取り上げたのは、理由がある。チャージャースのスカウティング能力の高さに驚いたからだ。
 クロマティーは、米国のNFLマニアには、母親との相思相愛関係つまりママっ子として知られている。弟妹が3人、父は家出、母親のカサンドラが1人で家族を支えてきた。長男として、率先して耐乏生活を守り、同時にフロリダ州のリンカーン高校ではQB、RB、WR、CB、Sで活躍、USAトゥデー紙最優秀守備選手に選出され、子供時代から憧れていたフロリダ州立大に進み、陸上競技にも取り組んだ。しかし、境遇からのストレスからだろうか、入学直後から同僚選手と喧嘩の絶えない問題児となった。本人の申告によれば、1ヶ月に2回のファイトを行ったという。1、2年生でスタートしたのは1試合だけ、あとはニッケルバックとWRで交代出場しただけ。3年目の6月には左膝前十字靭帯を負傷して、そのシーズンを棒に振った。そして、翌年1月に母に乳癌が見つかり、彼女が疾病保険にかかっていないことも判った。ここで、アントニオは即決した。3年で大学を止め、NFLドラフトを受けよう。
 本人にそれなりの自信はあったようだ。コンバインでは40ヤード走(4秒41)とベンチプレス(18回)で全選手中1位。しかし、選手としての実績はゼロ、ドラフト5巡にかかれば上出来、そう本人は覚悟していた。しかし、チャージャースは第一巡、しかも総合19位で指名してくれた。5年間で1275万ドルの契約だった。大学の記録なし、あるのは(前十字靭帯損傷の)負傷歴だけ、にもかかわらずの指名に、私も含め誰もが驚いた。1年目は前に述べたようにタックル24、インターセプト0。しかし2年目にいきなり選手として大爆発した。記録ゼロ、能力未知数にもかかわらず、その可能性を見抜いたチャージャースのスカウティングの高レベルは評価したい。
 出色の運動能力に隠されるが、「最初にフィルムスタディ室に入り、最後まで残っている」(CBジャマー)と研究熱心。今08年は、対戦相手は彼を避けた攻撃を展開するだろうが、今季第1巡で指名したカーソンが、抜けたフローレンスの穴を埋めるニッケルバック、第3CBに入り、試合のポイントを握りそうだ。昨年はエースRBトムリンソンの負傷で念願のスーパーボウル出場を逸したが、TEゲーツ、LBメリマンなど超一流選手も多く、今季チャージャースを有力候補にあげる米国解説者も少なくはない。

 史上最長記録を作ったバイキングス戦には裏話がある。試合の前々日である金曜日夜、母親の住居に失踪していた彼女の夫がライフルを持って侵入、母親を誘拐したのだ。血相を変えてアントニオがミネソタからフロリダに戻りかけた深夜に、夫が解放して逃げたので、大事は防げたが、そのいらいらを晴らしたのがあの大胆なリターンというのが、チームメイトの内輪話だそうだ。

 

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