アメリカが愛したQB

最もフットボールを楽しんだ、豪腕QB引退

Football galvanizer
Sadao Goto
(TOUCHDOWN PRO2008年3月発売号より転載)

最もアメリカに愛されたQB
 ブレット・ファーブ(38歳)が引退した。
 豪腕のクォーターバックで数々の記録を残したが、それよりもアメリカは彼の人間性を愛した。史上に残る名QBであるが、誰からも愛される飾らないキャラクターも魅力だった。田舎町グリーンベイを愛し、17年間の選手生活のうち16年間をこの厳寒の地で過ごした。シーズン終盤、零下10度Cを超える雪の中、大きな白い息を吐きながら、真っ赤にこごえた手で、若手WRの胸の中にボールを投げ込み、両手を挙げて祝福に走る姿は、すべての米国人、そして世界のNFLファンの目に焼きついている。
 2008年3月4日、グリーンベイ・パッカーズが発表、6日本拠ランボーフィールドで本人が引退会見を開いた。「まだ出来ると思うが、したいとは思わない。素晴らしいNFL生活だったが、それも終わった」。カジュアルな彼らしく、ダンガリーシャツにジーンズで、「感情的にはならないと約束したのだが…」と述べたが、ここで絶句して、大きな涙をこぼした。「多くの人が私のためにお金(入場料)を使ってくれたが、その価値があったと思って欲しい」。
  「フットボールは全力のスポーツ、私にとってプレーする唯一の方法は100%の発揮しかない」。だから、90%ではプレーしない。最終の年となった08年、ダン・マリーノの記録を破る通算442TD、通算獲得距離61、565ヤードを達成。ジョン・エルウエーが持っていた通算スタートQB勝利数を超える160の勝利を上げた。QBとして連続スタートした試合数253(レギュラーシーズン)もNFL記録である。

 ファーブが来日したのは10年前、98年だった。連続出場したスーパーボウルでブロンコスに24対31と敗れた4ヶ月後で、アメリカンボウル親善大使の肩書きだった。東京ドームでのロケでは、プロ野球巨人軍の練習に飛び入り、背広のまま、サザンミシシッピ大では先発だったとマウンドに立ち、たぶんアメフットファンの仁志さんあたりを相手にけっこうな速球を投げていた。
 相手をしてもらったフットボールのキャッチボールでも、豪速球を投げ、突き指で痛がる私にはウインクを返すだけ。試合でWRがカバーされたら守備バックを突き破るボールを投げるとコメントしたが、まさに剛毅そのもの。TDしたWRを肩に担いで祝福する姿も愛情の素直な表現にすぎない。頼りになる長男タイプは、すべてに飾り気がなかった。
 
 「やり残したことはない。トップの状態で選手生活を終われた。人々が業績を讃えてくれるが、これは僕の業績でなく、我々(つまりチーム)の業績だ」とファーブは付け加えた。
 NFLでMVPに3度選ばれたのはファーブだけ。スーパーボウルMVPをとってからの引退を望むマニアもいたし、私はあと2年はプレー可能と見ていたが、ファーブの美学は違っていた。今後の予定は今は考えられないという。最もフットボールを愛したQBは、最もフットボールを楽しんだQBに違いない。
 17年間の記録は投球8758、成功5377、獲得距離61655ヤード、288インターセプション。成功率61・4%。TD率5・0%、インター率3.2%と、さすがの好記録である。

G版史上ベストQBランキング
 名QBファーブの引退がきっかけとなって、史上最高のQBを選ぶベストQBランキングがたびたび米国マスメディアで取り上げられている。現代NFLに限定しても、全選手を見た選者は少なく、QBに要求される能力なども時代で異なり、決定的なリストの作成は難しい。60年代以前はDVD、ビデオで確認できた選手に限定して、私なりのベスト10を選んでみた。ファーブは6位、適正な評価だろうか。

1位、ジョー・モンタナ 49ナースをスーパーボウル優勝に4回導き、MVP3回。危機でも冷静さを保つ知性派QBの源流。
2位、オットー・グラハム パス力だけでなく動き(脚力)も持つ、近代T攻撃QBの祖。ブラウンズを10回選手権に出場させ、うち7回優勝。
3位、トム・ブレイディー パス力、リーダーシップ、戦術など複合的能力を持つ進化した知性派。シーズンTD記録を持ち、スーパーボウルMVP2回。
4位、ジョニー・ユナイタス NFLを米国の象徴スポーツに普及させた、47試合連続TDパスの記録を持つ。
5位、ジョン・エルウエー 大試合で逆転を演じるクラッチ・アスリート。AFC優勝5回、スーパーボウル優勝2回。
6位、ブレット・ファーブ 傑出したタフネスで通算パス記録のほとんどを持つ、スーパーボウル出場2回。
7位、ペイトン・マニング トップ級のパス記録を持ち、オーディブルを一般戦術に普及させ、スーパーボウルMVP1回。
8位、ダン・マリーノ 華やかなパス攻撃の魅力を普及させ、ロングTDパスの成績をあげたが人気者だが、スーパーボウル優勝はない。
9位、サミー・ボー 低迷していたレッドスキンズがフォワードパスに導入して現代戦術を普及させた。
10位、テリー・ブラッドショー 6年間でスーパーボウル優勝4回、70年代にスティラースの王朝時代を作った。スーパーボウルMVP2回。

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