アリゾナに咲いた男達の闘志

ペイトリオッツ完全優勝ならず、第42回アリゾナ・スーパーボウル

Football galvanizer
Sadao Goto
(TOUCHDOWN PRO2008年増刊号より転載)

 近年、富裕層の避寒地として注目を浴びるアリゾナ州フェニックス市は、近隣のテンピ市、グレンデール市、スコッツデール市を含めたグレーターフェニックスとしては、人口が全米第5位まで急浮上した。強烈な太陽、赤い砂漠、サボテン、インディアン居留地、もちろんグランドキャニオンといった従来のイメージと、突如として林立した近代建築が奇妙にマッチして、新鮮な感じがする都会である。グレンデールの高速道路脇に立つ、メタリックに輝く巨大なユニバシティオブフェニックススタジアムは、力強い自然と近代文明が強引に同居する感じで、新時代を拓く第42回スーパーボウルの舞台にふさわしい。

 史上初そして今後の実現は不可能とされるシーズン19戦全勝、そして4度目のスーパーボウル制覇を目指すAFC優勝のニューイングランド・ペイトリオッツには、その現代的戦法、戦術から先端技術集団の印象が強い。一方、シーズン終盤から急激に力をつけたNFC優勝のニューヨーク・ジャイアンツは、チームへのロイヤリティや選手同士の信頼といったきわめて人間的なメンタルタフネスが原動力になっている。多少こじつけめくが、この対戦にも、先端科学対大自然といった図式を適用できなくもないだろう。
 あと30分で宿舎を出て、グレンデールに向かねば、スタジアムの雑踏を避けられない。
 ラスベガス賭博の公式オッズはパッツが12点差で優位、私の希望も34対30ぐらいのスコアでパッツが史上初の19戦全勝する現場に立会いたい。つまり、歴史の目撃者にもなりたいし、伯仲の展開も楽しみたいという、いつものわがままなのだが、ここに来て、パッツの集中力に不安を感じる出来事が起こった。
 ここまで書いて、出発の時間が来た。
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 試合が終了した。ホテルに戻って、今、4日(月)午前2時30分。
 頭の芯が痺れるような、強烈な展開だった。
 2日前の金曜日に戻って、経過を追おう。2001年スーパーボウルといえば、パッツが劣勢予想を覆してラムスを下し、現在の黄金期を開始したゲームだは、じつは、その時にもルール違反の盗撮が行われていたとの報道が、1日に全米に流れた。スーパー前日のウォークスルー(試合会場での練習)で、午前中に練習したパッツのスタッフが会場に隠れ、続く練習に登場したラムスの練習を撮影したという。パッツ関係者は、この6年前の出来事を即座に否定、NFL当局も根拠のない噂に過ぎないと完全否定した。しかし、噂はくすぶり、その影響だろう、パッツは4日(土)に予定された、今回スーパーボウルのウォークスルーを中止した。つまり、フィールド状態を確認せず、3日にぶっつけ本番で臨んだ。
 選手関係者の胸にかかったもやもや、これが、精神的にも肉体的にも、試合に影響をしないわけはない。

 3日(日)試合当日、パッツが勝てば史上初の19戦全勝、ジャイアンツが勝利をあげれば兄弟QB初の連覇となる、歴史的な試合とあって71,101人の大観衆と約4千7百人のマスコミがUPスタジアムに集った。
 試合前の歓声から推測すれば、6対4でジャイアンツの声援が多い。プロボウル出場はわずか1人だが、プレーオフに入り抜群の集中力で遠征試合に連勝、少年の面影が残る天才QBイーライ・マニングを盛り上げるジャイアンツは善玉、一方、今季初戦でスパイゲート(盗撮容疑)事件を起こしたパンツは、近代戦法を駆使して絶対王者を目指しながらも敵役の色彩が強くなった。
 コイントスに勝ったジャイアンツは、開始直後自陣23ヤードから、まさに入魂の攻撃を開始した。この試合のリズムがこのドライブで定まった。時間を消化しながら、集中力を切らさずに、じっくりと前進を重ねた。ラインはドライブの利いた重厚なブロックを見せ、豪脚のRBジェイコブが突進した、それでも長い距離が残った第3ダウンには、QBイーライ・マニングが冷静にピンポイントへのパスを通した。ジェイコブの左ラン3ヤード、ジェイコブ中央ラン2ヤード、そしてショートミドルゾーンのWRバレスへ14ヤードパス、といった具合に、ファーストダウンを重ねた。4回のサードダウンを、パス3回、交代出場の快足RBブラッドショーのランでクリア、15プレーでパッツ陣14ヤードまで攻め込み、結局Kタインズの32ヤードFGで終わったが、16プレーで63ヤードの前進、9分59秒のドライブはスーパーボウル史上最長の記録となった。まさに気迫の証明、ジャイアンツの闘志が精緻なパッツ守備を破壊し始めた。
 パッツも続くキックオフに、エースRBマロニーをリターンに起用、43ヤード返して好位置から反撃を開始したが、守備ラインの猛烈なスピードのパスラッシュにQBブレイディが生きない。エースWRモスをダブルカバー、ギャフニー、ワトソン、フォークの補助レシーバーが密着カバーされ、テンポが出ない。それでも、パスインタフェアの反則を誘い、第2Qの最初のプレーで、RBマロニーの1ヤードTDランに結びつけた。12プレー、56ヤード、5分4秒のドライブだった。
 約10分かけたジャイアンツが3点、パッツは5分間のドライブで7点。結局この差で点差も開いていくのか、そう思いかけたが、前半の残った14分間で目にしたのは、ジャイアンツの猛烈な闘志だった。パッツ攻撃を3&アウト2回、インターセプト1回で完封、パッツ陣深く攻め込んだ攻撃は、インターセプトで逸したが、前半の獲得距離はパッツ81ヤード、ジャイアンツ139ヤード。3対7と劣勢だが、試合のリズムは明らかにジャイアンツだった。
 7対3のまま迎えた第4Q、スーパーボウル史上に残る壮絶な展開となった。前半よりさらに平静心とパスの精度をあげたイーライが新人長身TEボスに45ヤードのパスを決め、ジャイアンツは好機をつかんだ。WRスミスへの17ヤードパス、ブラッドショーの鋭いランで5ヤードに攻め込み、ポストシーズンには1捕球しかしていないWRタイリーに5ヤードTDパスを決め、10対7と逆転した。ドーム内は大歓声で狂乱状態となった。しかし絶対王者を目指すパッツ、試合残り7分台になったところで、QBブレイディが眉一つ動かさずに反撃を開始した。ウエルカー、フォークと切り札にパスを集中、前半は1捕球だったモスがエンドゾーンに走りこみ6ヤードの逆転TDを仕上げた。5分12秒、12プレーで80ヤード、11回のパスを9回成功させる完璧なドライブだった。パッツ14、ジャイアンツ10。残り試合時間は2分42秒しかない。場内を支配した史上初のパッツ19戦全勝の予感。
 だがイーライは目を伏せなかった。自陣17ヤードから、冷静に精確に、しかも全速で追い上げを開始した。WRトゥーマーに11ヤード、9ヤード、自らスクランブルで5ヤード、ジャイアンツサイドラインでは選手が手をつなぎイーライに見つめた。そして迎えた敵陣44ヤード、残り1分15秒、第3ダウン残り5ヤード。ここでイーライが闘士になった。激しいラッシュを振り切って右に走り、タイリーの頭上に鋭い22ヤードのパスを投げ、タイリーが執念で捕球した。その4プレー後、シングルカバーのバレスがCBホブスを一歩も動かせずに抜き、左エンドゾーンで、14ヤードの逆転TDパスを捕球した。スタジアム全員が、テレビの前の全世界が、床を踏み、椅子を叩き、勝敗でなく、その昇華した闘争心の純粋さに胸の中で涙を流した。17対14、ジャイアンツが17年ぶり、3度目のスーパーボウル優勝を遂げた。パッツの19戦全勝の完全シーズンは夢と終わった。MVPは史上初の兄弟QBの連続受賞となったジャイアンツQBイーライ・マニング(27歳)、34回19成功255ヤード、2TD、1INT、パッサーレーティング87・3、3S−8。パッツQBトム・ブレイディ(30歳)は48回29成功266ヤード、1TD、0INT、82・5、5S−37だった。
 試合後イーライ・マニングは、 
 「このチームの仲間や彼らがやったラン攻撃は、本当に信じられない。良いファイトだったし、守備は傑出していた。最後のドライブは多数の選手の、多数の決定的なプレーがあった。信じられない試合で信じられない気分だ。
 逆転となったバレスへのパスは、普通のフェードルートで守備はブリッツしてきた。ゾーンカバレッジで、CBはランを予想していたのだろう、動かなかった。
 兄弟で連続してスーパーボウル優勝を果たしたので、楽しい1年だった。去年はペイトンが勝つのを見ていたし、今年はジャイアンツが勝った。信じられないし、このチームの連中を誇りに思う。自分達に自信を持っていたし、勝てると信じていた。
 最後のドライブに鍵となったスクランブルパスは、タイリーの凄いキャッチだった。僕は逃げる道を見つけて、投げただけ。信じられない捕球だったし、あれで試合が救われた」

 気迫(マンパワー)が精緻な技術を凌駕した。自然が文明優位を押し戻した。頑強な肉体を通じて交錯した理性と闘志、アリゾナの荒野では男達が厚い胸を張った。

2008年2月3日 ユニバシティオブフェニックススタジアム(グレンデール)
ニューヨーク・ジャイアンツ      3 0 0 14 =17
ニューイングランド・ペイトリオッツ  0 7 0 7 =14

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