ベルチックの宣戦布告

モスとメリウエザーは矯正出来る

Football galvanizer
Sadao Goto
(TOUCHDOWN PRO2007年5月発売号より転載)

 ペイトリオッツが、レイダースの厄介者WRランディ・モスを獲得した。
(今年のドラフト1番でLSUの豪腕QBラッセルを指名、モスと組んだミサイル攻撃を期待したレイダーズマニアも多いと思うが、それは夢に終わった。たぶんチームに悪夢はまだまだ続くだろうが)。

 予期せぬ電撃移籍とあまりにも意外な組み合わせに米国は仰天した。しかも、最近異常な挙動が多いとはいえ、引退したら名誉の殿堂入りさえ噂されるモスの代償が、第4巡指名権(全体で110番目)という大安売りだったのも、プロの無情を感じさせた。
 
 ペイトリオッツ(パッツ)の一人勝ち、この大技に周到なペイトリオッツの仕掛けを感じる。4年間で3回の優勝のあとは、2年連続してスーパーボウル出場を逸してパッツが本気で復活へ加速した。
  たしか数号前のTOWに、キャップに余裕のあるパッツの動きに要注意のメモをのせたように、今年のパッツはオフシーズン初期から能動的だった。今リーグで最もヴァーサタイルな守備選手であるアダリウス・トーマスを獲得、そしてFAマーケットでWRダンテ・ストルワースとケリー・ワシントンを獲得した。WR&KRのウエス・ウエルカーをトレードした。さらに、スペシャルプレーヤーのエースであるラリー・イゾを含む、自チーム選手数人と契約更新した。
  そして、このランディ・モスの獲得である。パッツの名将であるビル・ベルチック・コーチは、モスは現在でも40ヤードを4秒3で走ると発表した。となると、9月にはパッツが優勝最有力候補として話題を一人占めするのだろうか。
  「その可能性は高い。ベルチックがもっとも欲しかったのは、ビッグな(大きな)WRなのだから」と肯定するのはライバルであるAFC東地区にスカウト。昨季、6フィートのリッチー・コールドウエル(61捕球)、5フィート10インチのトロイ・ブラウン(43捕球)以外に、25回以上の捕球を記録したWRはいない。この2人がTD数(わずか4TD)でもチームの第1位である。TOPGUNならぬPOPGUN(紙鉄砲)とからかわれるこのWR陣にもかかわらず、QBトム・ブレイディはチームをAFC選手権まで導いた。今秋それに6フィート4インチのモスが加わるとしたら、対戦相手は驚異だろう。
  一方、安売りされたモスといえば、名門チームへのトレードに大はしゃぎ。早速フォックスボロで受けたフィジカル(体力検査)後のカンファレンスコール(共同電話記者会見)で、「私の過去7年間のNFLでの活動は、私の出来ることのほんの一部をみせただけだった」とパッツでの選手生活こそ実力を発揮する場所だと決意表明した。
  『ほんの一部』というが、最近2年間でモスが見せたのはまさに短く、ごく並のプレーにすぎなかった。バイキングスでの7年間は5度のプロボウル出場、殿堂入り候補と呼ばれるにふさわしい実績を残したが、05年に移動したレイダースは、この2年間わずか6勝26敗。昨06年の彼の記録はいずれもキャリア最低の42捕球、553ヤード、3TD。加えて、モスは前ヘッドコーチのシェルを中傷、心のこもらないプレーが目立った。今春の新コーチのレーン・キフィンが呼びかけたボランティアプログラムも欠席し、チームの大幅な構造改革も目に入らない様子だった。
  ドラフトの数週間前からトレードの気配があったという。そして、ドラフト初日の夜、ベルチックのレイダースからモスとの交渉を許可され、話は一気に加速した。ベルチックは自身に事前調査に加え、信頼できる調査機関からの情報を得ていたというが、モス自身と直接に話したのは、その夜が初めてだった。ベルチック自身、モスの実力は以前から認め、機会があったらコーチしたいと周囲に漏らしていたようだ。
  「彼はペイトリオッツの一人になる機会があるとしたら、喜んでくれるかなと聞いてきた。事実、圧倒された」とモス。「私がどれぐらいこのチームの一員になれることに興奮したか、貴社の皆さんには理解出来ないだろう」。
  この結びつきそしてパッツが目指すスーパーボウルへの復活を単純に喜ぶファンも多いだろうが、大きなリスクがあることも確かだろう。モスは、やる気ない態度とフィールドでの奇妙な行動を繰り返してきた。バイキングス時代には、審判にボトルの水を吹き付けた事件があった。ランボーフィールドでは試合中にパンツを下げ、パッカーズのファンにお尻を突き出したことがあった。ワシントンでは終了前の会場を去って問題となった。
  パッツは最もチームケメストリー(団結)がとれたチームとして、NFLの模範チームである。モスのこのタイプの行動は最も憎まれるチームである。事実、ベルチックはモスに、ロッカールームの外側でのエゴ(自分勝手)は慎むこと、自分本位の態度の抑制がなさすぎることを注意している。
  2月には30歳となったモスは、もう一度リーグで最も危険なWRになれること証明したいと述べた。これまでの経験では、言葉と行動が大きく遊離していた。
 「過去においてそんな行動があったのは自覚しているが、それはすべて過去のこと、希望するのは、この挑戦が上手くいくこと、そして、チームが同じように感じてくれること」とモス。
 前述のAFCスカウトは「彼の熱い希望がどうなのか知らないが、過去2年間の行動はそれを否定している。彼が態度を変えるか、変わらないか。私にはわからない」。

 パッツには過去にも同様なキャラクター・リスクを負ったことがあった。04年シンシナティから不満分子だったRBコーリー・ディロンを獲得した。ディロンはパッツで更正して、3年間チームの優秀なバックとして活躍した。
 定評のあるベルチックの指導力、チーム第一にまとまるパッツ選手の相互理解で、モスは生まれ変われるのだろうか。パッツは今年のドラフト1位でも、問題児といわれるマイアミ大のブランドン・メリウエザーを指名した。メリウエザーはフロリダ・インターナショナル戦での乱闘で相手を蹴り上げ、問題となった。
 成否はこの3ヶ月ではっきりするだろうが、自信たっぷりに規格外の2人を受け入れるパッツの包容力に、NFLトップ返り咲きへの自信が垣間見える。
三昔前にはレイダースが選手の再工場といわれ、真価を発揮できないベテラン選手のあこがれの場所だったが、21世紀になって『ラストチャンス』の場所はパッツになった。慧眼のベルチックが節穴をあざ笑うように、新勢力で宣戦布告したと受け取ろう。

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