クリップボードホールダー
ダラス・カウボーイズQBロモの場合

Football galvanizer
Sadao Goto
(TOUCHDOWN PRO2006年11月30日発売号より転載)

 第12週はサンクスギビングデイがあり、本23日、カウボーイズがバッカニアーズを破り5連勝の報告が入ってきた。独走状態のベアーズへの強力な対抗馬だろう。
 カウボーイズが再び注目を集めたのは、前11週に、それまで9戦全勝だったコルツを21対14で下し、初敗戦を記録させたことからだった。開幕前から戦力的には地区優勝第1候補と見ていたが、序盤は攻守のバランスを欠き、3勝3敗とまずい出足だった。不調の原因の一つがQBブレッドソーだった。未完の大器はプロ14年目にして依然未完のままである。

 ヘッドコーチのパーセルズ、第7週から4年目のトニー・ロモを起用した。ロモはIAAイースタンイリノイ大出身、ダラスに自由契約つまりドラフト外で入団して4年目、しかも3年間は僅か2スナップのみの出場、公式パス記録ゼロ、いわゆるクリップボードホールダーだった。サイドラインでゲームプランをはさんだクリップボードをもち、攻撃コーチを補助する、いわば戦力外のQB。そこからのいきなりの抜擢だったが、ロモはそれに見事に応えた。

 クリップボードホールダーは、試合中に出場登録QBが全員負傷した場合にだけ、特別に出場が許される第3QBの場合が多い。すべての技術、戦術を理解する頭脳と、試合の状況を分析する冷静さが必要なポジションで、身体能力や技術が足りないために主力となりきれないが、非常時には代役がこなせる程度の能力は十分の持つ、そんな選手がなっている。この条件を満たす選手は数多くなく、バックアップQBとしてプロ生活を過ごす選手も幾人かはいる。

 レッドスキンズでプロ12年目を迎えたトッド・コリンズは代表的なバックアップQBとして一部のマニアには名高い。ミシガン大を出て95年ビルズに入団、98年にチーフスに移籍、06年レッドスキンズに移った。ビルズ時代の3年間は出場機会もあったが、チーフスに移って以降の9年間は完全なクリップボードだった。
 この9シーズン、138のゲームプラン、およそ600回の練習、1300時間以上の対戦相手のフィルム分析を行った。しかし、9年間での公式記録はパス27回、成功18回、獲得距離229ヤード、TD1だけである。
 しかも、最近3年は、レギュラーチームの練習すら参加したことはない、出場機会はゼロ。快晴でも悪天候でも、大敗にも劇的な勝利にも、サイドラインに立ち、突然訪れる出場にかすかな希望を持ちつつ、黒子に徹してきた。報酬は推定125万ドル。コリンズはバックアップQBに対するコメントをメディアにもらしたことはない。自身4年間のバックアップを経て、一流QBとなったジョー・サイズマンは、「すべてのバックアップが出場機会を待ち望んでいる。練習機会も少なくそれでも万が一に備えてサイドラインに立つバックアップの精神的タフネスは、スタートQBの何倍も必要だ」。

 しかし、そのバックアップQBが突然訪れた夢の出場を実現した時こそ、真の苦難の始まりと、QBだったライクが言っている。93年のプレーオフで、バッファローがニューストン相手に32点差を大逆転した試合の、伝説のQBである。「いきなり出場しても、さびついた技術はすぐには戻らない。厳しい野次が延々と続き、最初は苦笑いで済ませるが、最後にはこらえきれずに逆上してしまう」。レイヴンズのビリック・コーチは、バックアップQBを「危機に登場してチームを救うのは世界中で最高のシゴトだろう、ただしプレーするまでは、だが」。

 辛苦のサイドライン暮らしも、待望して掴んだ出場機会で成功すれば、救世主としてヒーローの座に座る。
 今2006年は、増加する負傷の危険性とコーチの不安を表すようにバックアップQBへ注目が集まっている。序盤10週で13チームが何らかの意図をもって、バックアップQBを起用した。
 ジャガースでは、デルリオ・へッドコーチが先発のレフトウイッチに代えてギャラードを起用、チーフスではエドワードが負傷したグリーンよりヒュワードを重用しているし、ドルフィンズではバックアップのハリントンがベアーズを破る番狂わせを指揮した。ハセルベックが回復するまでシーホークスを支えたのはワレスだったし、レイダースとバッカニアーズでも一軍の負傷でバックアップが出場している。

 ロモがスタートしてからカウボーイズは5連勝(第12週を含む)、ロモのパッサーレイティングも凄い。第1位のペイトン・マニングに僅か0・5ポイントの差の100、NFL第2位である。68%という高成功率、コルツ戦には82・6%の驚異の数字だった。平均距離8・9ヤードも傑出している。スタートした試合では最低225ヤードのパス獲得距離がある。
 ロモのパスの特色に、絶妙なリードボールがある。レシーバーのスピードと方向を生かすパスでレシーバーのRAC(ラン・アフター・キャッチ)がぐんと伸びた。それが9ヤード近い高い平均距離となっている。丁寧に練習相手となったバックアップQBならでは成果なのだろうか。
能力的に評価すれば、まず知性は高い。プロとしては平均的な遠投力、スピード。タイトカバー、アンダーニース、守備の弱点を判断して投げ込む制球力はある。走りながらのパスも及第点。
 ただし、体重99キロ、身長が188センチと現代QBとして低いので、パッシングウインドー(ボールを通す窓)を作り出す動きがどうしても必要だった。
 ロモの成功に関する情報がある。前スタートのブレッドソーはショットガン体型が嫌いだった。スナップしたボールを捕球するためにパスラッシュから目を離すのが不安だったからだ。一方、ロモは守備のプレッシャーをかわす時間が稼げると好むので、彼が先発になってからショットガンは増加した。ロモにとってのもう一つの利点は、ショットガンは守備を拡散させ、ミスマッチ地点を発見するのが容易になり、ボールを素早く配球できるというのだった。背が低い、サイズの悩みをショットガン体型で克服した。
 12月3日、ジャイアンツに雪辱すれば、ダラス・カウボーイズのプレーオフ出場は間違いない。

ペイトンのギャンブル
 セインツはこのまま急降下してしまうのだろうか。連敗でタフな相手が待つ終盤を迎えるが、なんとかプレーオフにもぐり込めば今季新任のショーン・ペイトンはコーチ・オブ・ザ・イヤーに選出される可能性は大きい。
 ペイトンが今季に勝負をかけた6つの選択を紹介しておこう。

1、 マーキス・コルストン
セインツのエースWRというより、NFLを代表するWRとなった新人のコルストンは、リーグ第5位の54捕球、869ヤード(7TD)。193センチのTEもこなせる大型で、対戦相手の脅威となっているが、ドラフトはD7B、つまり最下位から3番目の指名だった。ペイトンは夏キャンプで彼を観察して即決、一軍だったストルワースを放出、第1戦から彼をスターターに起用した。「自分の目でみた評価を信じること。これは、ビル・パーセルズから学んだ」。

2、ゲームプランニングとプレーコーリング
  ペイトンは大胆で創造的な攻撃を展開する。RBに二大エースのマカリスターとブッシュを同時に起用したり、敵陣11ヤードでダブルリバースを展開したり(TD)。

3、 新戦力
  キャンプを通じて能力を読み、チームを作るのが常道だが、選手評価力が高いペイトンは、シーズン直前、1週間前に駆け込み移籍してきたタレントを見抜いた。シモノーとシャンルの2人を、オフに加入済みフジタに組ませ、守備のハートである無敵のLBトリオを作り上げた。

4、キャラクター
  ペイトンは選手のキャラクターを重視する。「ロッカールームには、自分自身よりチームを優先する、そんな性格を持つ選手を集めたい、それがチームの向上には欠かせない。この理念を持つチームとしては、ペイトリオッツが理想だろう」。QBブリーズ、RBブッシュ、LBフジタはペイトンがどうしても欲しいと熱望したそんなキャラクターの持ち主だった。

5、モチベーション
  ディック・バメールを動機付けスピーカーに招待、セインツ選手の意欲を喚起し、台風からの復興を呼びかけた「ヘルプ・ライズ・ザ・シティ」を盛り上げた。

6、トレーニング
  夏のキャンプでNFL随一と評価された体力的に厳しいトレーニングを行った。選手個個へ妥協のないウエイトを課した。

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