THANKS、POUL!
タグリアブーへ感謝を

〜さよなら、コミッショナー・シリーズ第2弾〜

フットボールガルバナイザー
後藤完夫
(TOUCHDOWN PRO2006年5月31日発売号より転載)

日本への門戸を開いたタグリアブー
  最も米国スポーツ界で権力のある人物アンケートでつねにベスト5に入ってきた、NFLコミッショナーのタグリアブーが、5月母校の卒業生に祝辞のスピーチを行った。
 7月には辞任が決定しているタグリアブーは辣腕の指導者だった。労働協約とテレビ放映のNFL二大経営指針を確立すると共に、国際化とデジタル改革に積極的に取り組んだ。
 今から何年前になるか、日本にNFLの支局となるNFLジャパンを立ち上げる時に、記念行事として『アメリカンフットボールサミット』を開催したいとNFLジャパンから相談を受け、その企画運営を担当したことがあった。
 日本からは協会代表や現場代表(関学大鳥内監督など)、女子タッチフット代表など8人が参加、NFLからはタグリアブーが側近を多数引き連れ自ら会議に参加してくれた。約2時間の日本の現状説明を聞きおえた彼は、いきなりMC(議長)を担当していた私に、「けっきょく、NFLはなにをすれば、日本のフットボール普及に貢献出来るのか」とちょっとイラついた顔で質問した。一瞬、会議場は厳しい雰囲気になったが、あの顔この切り口上が弁護士特有なのは米国取材で熟知していた。私は持論であった3つの要望を出した。最も大きな課題は現場のレベルアップ、優秀な指導者が不足しているので日本人コーチに本場でコーチ研修をさせたい。次に優秀な選手人材を確保したい、ついては日本人選手へNFLの門戸を開いてもらいたい。最後がフットボールの底辺拡大を図るため、フラッグフット振興に協力してもらいたい。この3項目だった。タグリアブーはその場で全て了解したと即答してくれた。
その6ヵ月後には、米国でのWLAF(現在のNFLEL)コーチ研修ツアがスタート、WLAFの日本人選手の積極的受け入れが開始、そして大量のフラッグセットとボールが日本に届きフラッグフットの普及が開始した。
  直接のコンタクトはこの時限りだが、濃厚な3時間で、彼の強い倫理感と洞察力、実行力を理解するには十分の、貴重な時間だった。
 以下に紹介する卒業生へのスピーチ(要約)には、その時に感じた、優秀な経営感覚と文化の主導者としての矜持が溢れている。

後輩への卒業祝辞
  NFLコミッショナーのポール・タグリアブーは1962年米国東部の超名門校であるジョージタウン大学を卒業した。在学時代はバスケットボール部に所属、最終学年は主将をつとめた。学業も優秀で全米で毎年4人しか選出されないローズ奨学金の最終審査まで残った(ベスト10に相当すると思われる)。2006年5月18日、母校で卒業直前の最終学年会議で、祝辞を述べた。

 ありがとう、そしておめでとう。
 いつもジョージタウンに戻ってくるのを楽しみにしています。1958年のバスケットボール奨学金を得て入学、62年には卒業しましたが、それから大学を訪れる回数はまれになりました。バスケットコートから、フットボールフィールドと活動場所も変わりました。

 もうすぐ、貴方たちは卒業、私は引退します。次にナニをするかを考慮する点では同じ立場といえます。貴方たちは優れた教育を受けて次のステージに向かう、人生にとってもエキサティングなポジションにいるわけです。ご存知のようにこの40年間で私も幸運な経験をしました。弁護士として、そしてフットボールの経営者として。
  この40年間はプロスポーツ界ではドラマチックな変化が幾つか起こりました。多種多様なスポーツで人気が爆発、優秀な女子アスリートのためのプロリーグ、競技大会の国際化が当たり前になりました。
  しかし、変化がドラマチックになると同じように、世界中での変化のペースや多様性が加速されました。アメリカでは人口構成の変化とインターネットやデジタル革命を含む技術革新が変化に拍車をかけました。
 
 ここが私のメッセージの要点です。スポーツ世界の多様性や加速された変化はこれから貴方達が入っていこうとしている世界の小宇宙なのです。
 数年後、貴方や貴方の世代が変化や変化のスピードにどう対処するのか。地球上の民族の違い、多様性にどう対応するのか、これらは貴方たちの生活、わが国の生活、この新世紀の世界中の形成に甚大な影響を及ぼします。
 今、世界はシュリンク(縮小化)しています。人々が文化、信仰、伝統、経済及び政治制度を競いあって面と向い合っています。貴方たちの挑戦が希望と夢のある未来を創造します。

 西欧の伝統は私たちに心の基本となるやり方(慣習)を2つ教えてくれます。
 一つは、異なった文化と共有できる共通の人間性と価値を探し、その一方で、家族、友人、信頼、地域社会との関連性を強く維持することです。
 二つ目は、相違と変化を予期して、開放性をもってそれらを受け入れ、相手と共同した深い知識で変化に根拠を与えます。
 このやり方は、我々の生活の基本となるでしょう。

 分野や努力の大きさに関係なく、成長を止めてはいけません。今日までに、複雑な、哲学的、文化的、経済的、政治的、人種的力が生活を形成していくことをジョージタウンで学びました。残ったこれからの人生でも、知識や名誉を高める多数の機会と遭遇するでしょう。これらの機会を生かし、世界への好奇心を持ち続けてください。

 最近、日本と中国を訪問して、アメリカ人は今まで以上に異宗教間、異文化間の学習や対話に関心を払わねばならないと確信しました。貴方たちもそうであるように、我々のほとんどが我々と中国とは大きく違っていると考える傾向があります。お互いが互いに尊敬しあっていたとしても。しかし、違った基本的な方法をとれば、相違点より共通点を発見することが出来ます。彼らは誰で、我々は彼らをどう定義するか、そして中国とアメリカの類似点を共通の利益に発展させられるでしょう。
 中国で多数の人々とフットボールに関しての会話を持ちました。中国人はフットボールをアメリカ独自の価値の最も悪い部分を代表しているスポーツと平気で私に話しかけます。最も悪いアメリカ文化とは、暴力と無制限の費用の競争を意味しています。中国人にとっての価値は、集団の利益、チームワーク、社会主義同志の支援と非暴力です。それを象徴するスポーツが卓球です。
 「とんでもない」と私は説明しました。「フットボールは暴力ではない。逆境への対応である。人生での挑戦そのものである。献身であり、労働倫理であり、個人とチーム両方が追求する共通のゴールである」。
 彼らは私の話に心をとらわれました。会話は続き、お互いにスポーツに関する発見があり、以前よりお互いの共通点を持つことができました。

 好奇心を持ち、真相を調べる。相違点に受け入れ、変化を恐れない。そんな人生がおくれるように期待しています。


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