嫌いな選手に会ったことがない(2006年編)

フットボールガルバナイザー
後藤完夫
(TOUCHDOWN PRO2006年6月30日発売号より転載)

戦うWR
スティーヴ・スミス
 2月12日(日)から、約5ヶ月経った。そろそろNFL禁断症が強くなってきた。
 この秋、とりあえず開幕記念のご挨拶代わりに見てみたい選手は、キャロライナのWRである、スティーヴ・スミスだ。昨年、最後に直接会話した選手だったので、その印象がよけい強い。濃度の濃い、緊迫した細部の積み重ねがゲームを形成するNFLにあって、要所で緻密な動作を大胆に展開、稀有の才能でそれをスペクタクルに仕立て上げる、絶頂期のスター選手である。この秋で6年目を迎える、27歳。
 分厚い胸だが、小柄である。5フィート9インチ、185ポンド。175センチ、84キロ。弾性の効いた走り、鋭角なカット、加速、確実な手。胸がすく大胆な動き。
 昨年は1年ぶりに負傷から復帰、パンサーズをNFC選手権まで引っ張る牽引者となった。弱体なラン攻撃、そして二番手レシーバーがいない不利な状況で、レシーヴ距離1563ヤードはリーグ1位、12TDレシーヴと103捕球もリーグ1位(タイ)と出色の個人成績をあげた。選手権シーホークス戦では、エースRB負傷欠場、二軍RBも開始早々に脳震盪退場して中、鬼気迫る孤軍奮闘をみせた。
 プロボウルで出会ったスミスは、大会余興の40ヤード走で2位に終わり、ちょっと不機嫌だったが、フランクでカジュアル。のってる選手だけが持つオーラがあった。すこし前までの、札付きの暴れん坊のイメージはない。

 じつは、彼の魅力の原点は猛烈な闘争心にある。
 ロサンゼルス市南中央地区で育った彼は少年時代から情熱的だった。少年野球をしていても、ミスした仲間を怒鳴りつけ、そのたびに母親フローレンスがスタンドから大声で仲裁に入った。サンタモニカ・カレッジに進み、今はベンガルズで活躍するチャド・ジョンソンと同期となった。ジョンソンは、つねに仲間に厳しいスミスがコーチに呼び出され、「どうして、そんなにカッカするのか、頭を冷やせ」と1試合ベンチに置かれたと証言している。ユタ大学へ転校しても激しい気性は直らず、ドラフト3巡でパンサーズ入りした2001年には、練習前のフィルムセッションで、練習生のブライトとなぐりあいの大喧嘩をした。ブライトは負傷入院、折れた鼻とほほ骨にプラスチックを埋め込んだ。
 スミスは自分を変えねばNFLでは生きていけないと自覚した。息子のペイトン、娘のベイリーとサッカーゲームの練習をしていて気がついたという。「私のフットボール選手として人格なんて、走り回る子供たちにはなんの影響を及ぼさない。一人の人間性しか他人には通用しない」。自らスポーツ心理学者を訪ね治療にとり組んだ。「これは有効だった。ものごとをネガティブに理解しすぎていたことに気がついた」(スミス)。変身したスミスは、2003年にチームをスーパーボウル出場に導く活躍をしたが、翌年は腓骨負傷で欠場した。この1年間がさらに内省の時間を与えた。「好きなものを失った時に、なにをすればよいのか考えた」(スミス)。
 学生時代に左腕に彫りこんだ刺青、ROUGH&NASTY(激しく意地悪く)、100%FOOL(馬鹿になれ)を消し、雄牛(自分の星座)を彫り直した。「今は反応する前に考える」。

 昨年のNFC選手権で、スミスは昔の彼に戻ったような激しい動きをサイドラインでみせ、その姿がテレビ中継でクローズアップされた。第2Q早くも0対17と劣勢にあり、QBサックで攻撃権を失った直後、4本指を上に突き上げながらサイドラインに戻り(彼1人を4人の守備バックがカバーしていた)、攻撃コーチの顔に顔面をすり寄せ、フォックス・ヘッドコーチが引き離すまで何かを怒鳴り続けた。
「あれは、そうじゃない。あと1歩でスーパーボウルなのに、まだ2Qでもうあきらめかけていた。それは間違いだと、皆を鼓舞したんだ」(スミス)。
 同僚のQBデロウムは、「あれが彼の自然な姿だよ。あれが彼を偉大な選手に育てあげたのさ」。

 パンサーズの攻撃コーディネーターのD・へニングもそれを認める。
「彼の身体と精神は激しい競争心に溢れている。もし誰かが彼を倒したとしたら、彼との戦いはそれから死ぬまで続くだろう。なぜなら、彼は決してあきらめないから」
 彼の豪華な自宅の応接間には、数々の賞品記念品が飾ってあるが、彼が最も大事にしているのは、02年9月22日対ヴァイキングス戦で記録した14ヤードの、初タッチダウンのボールである。彼は2001年ドラフトでWRとしては11人目と下位指名された。「小さなWRなのいで上手くいってリターナーどまりとしか見られていなかった。だから、初のレシーヴTDが最初の目的であり、すべての始まりだった」。スカウトたちは、彼の強い『意志』の力を見過ごしていたようだ。

 スミスの魅力は捕球した後、ボールを持って走る能力にある。RAC(ラン・アフター・キャッチ)である。昨年、平均7・9ヤードでRACリーグ1位となった。パンサーズの記録によれば103回の捕球のうち33回はスクリメージラインから2ヤード以内で捕球している。ヒッチ系のクイックパスだ。しかし、この33回の捕球で総計400ヤードの前進を記録した。
 RACは平均10ヤードになる。「クイックパスをスミスに投げれば、なにかが起こる」(ヘニングス)。
 スミスの身体能力も高い。垂直ジャンプ100センチ。確実な手(昨年落球はわずか4回)。クイックネスと敏捷性。40ヤードは4・38秒。今06年にパンサーズに移籍入団したWRキーション・ジョンソンがスミスと初練習したあとに、こうコメントしている。「私の娘がバスケットの天才アイバーソンを見た時と同じ気分だ。すごいとは知っていたが、彼がやる幾つかのことは驚異としかいえない」。

 スティーヴ・スミスの今季初試合は、プレシーズン第1週、ビルズを本拠に迎える。たぶん8月13日(日)だろう。あと、約40日だ。


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