スティーラース魂
Like father,like son

第40回スーパーボウル・レビュー

フットボールガルバナイザー
後藤完夫
(TOUCHDOWN PRO2006年2月28日発売号より転載)

 2月5日(日)雪のデトロイトで開催された第40回スーパーボウル、ピッツバーグ・スティーラース(AFC)21対10シアトル・シーホークス(NFC)の試合を振り返ってみる。別冊スーパーボウル(2月9日発売)では、整理仕切れなかった試合の流れ付け加えたい。(それにしても、試合終了4時間後の原稿締め切りは早過ぎるぜ)


 開始直後から攻撃合戦となると予想したが、仕掛けたのはシーホークスだけで、それも勝負どころのミスが出る、自滅でわずか3点の最少得点で第1Qを終わった。
 点の取り合いを予想したのは、最近のスーパーボウルの傾向からだった。一昔前のスーパーは、独立した一つの試合として、序盤は互いの手の内の探りあい、中盤になって対応を展開、終盤に仕上げするといった、現在から見ればほのぼのとした内容だった。ところが、フォティナイナースが登場した90年代から趣を変え、ペイトリオッツが常連となった00年代からは、序盤からいきなり勝負に出る、密度の高い展開へと変わってきた。高度化した評価、分析力がそれを可能にした。
 点の出し入れは少なかったが、展開は予想どおりだった。とくにシーホークスのウエストコースト(WC)攻撃は戦術面では理想的だった。
 RBアレクザンダーのラッシュ対策でボックス(第1陣)の人数を増加させたピッツ守備を崩すために、3ステップのショートパスを連続させた。減員された守備バックとくにCBは後方に抜かれるのを避けて、大目にクッションをとるが、その手前に4ヤードパスが通り、WC独特の小刻み前進を重ねた。ピッツのブリッツには、パスブロック要員を増加したマックスプロテクションで対応した。誤算はミスだった。要所で右G、右Tが各1回のホールディング、WRジャクソンはブレーク時にインターフェアしてTDを取り消しにされ、結局、Kブラウンの47ヤードFGだけに終わった。
 ピッツ最初の誤算は、少人数だが大音量のシーホークス応援席のクラウドノイズだったかもしれない。最初の攻撃シリーズでラインが2回のファルトスタートを犯し、このマイナスがその後にも影響、第1Qの3回あった攻撃の全ての開始地点が自陣20ヤード。プレーが制限され、QBロスリスバーガーのパスからは大胆さを奪った。ロスリスの1Qパス成功率は5回で1成功、20%。シーホークスのホルムグレン・コーチは、「なるべく多くの守備ルックス(外見)を準備して、QBの混乱に誘うようにした」。
 もう一つ、中央部ラッシュを警戒して内側を厚くしたシーホークス守備を中立状態に戻すべく、RBパーカーにエンドランを連続させたのも、持ち味を殺す結果となった。
 
 自縛状態になったピッツ攻撃に生気を呼び戻したのが、第2Q2分過ぎ、自陣20ヤードでのRBベティスの起用だった。引退を前に故郷デトロイトでのスーパー出場を熱望したベティスは、ピッツがシーズン後半にみせた奇跡的な復活の原動力となっていた。レッドゾーン要員のベティスをあえて自陣で出場させたのは、カウワーへッドコーチの攻撃チームへのメッセージだった。奮起した攻撃、とくに思い入れの激しかったスキルポジションが集中力を上げ、WRウォードが執念のレシーブをみせて初のファーストダインを獲得した。このドライブはQBロスリスのミススローがインターセプトされ、あっさり終わったが、ここから、ピッツの本格的な仕掛けが始まった。
 まず、看板の守備である。ルボー守備コーディネーターは34体型から複雑なブリッツを展開するのが持ち味だが、第1QにはTE、RBをパスプロにまわすシーホークスのマックスポスプロに封じ込められていた。ルボーは第2Qになってそれを逆手に対応した。ルボーは「ボウガス・ブリッツ」と表現した。ボウガスとは偽もの意味である。つまり、ブリッツの構えの34守備をとりながら、じつは1回もブリッツをしなかったのである。ブリッツに備えパスプロ要員を増加してレシーバー数を減らしたシーホークスに対し、ピッツ守備はブリッツを見せかけに、8人で53あるいは44のゾーンをひきカバレッジの密度を上げた。この結果、第2Qのハセルベックのパス成功率は50%に急降下、長身ジュレヴィシャスへのパスしか頼れず、ピッツ40ヤードラインを越えるのが難しくなった。
 さらに落球が連続した。今レギュラーシーズンでは急上達したようにみえたが、昨年までホルムグレンの頭痛の種だった落球が、この大舞台でボロボロと飛び出した。私がシーズン前に、シーホークス低位置に予測したのは、この落球癖に、精神的なもろさを感じたからだった。

 指の負傷の影響もあるのか、パスのコントロールを欠くロスリスは、第2の武器である脚力に活路を見出した。スクランブルからのシャベルパスや、サードダウン・28ヤードでみせた左スクランブルから右への大きなスローバックと、窮地では脚力でビッグプレーを演出した。2Q残り3分に迎えた初の得点機、敵陣3ヤード、ファーストダウン・3ヤードからは、2回ベティスのダイブを重ねたあと、ロスリスがベティスのブロックに上方に飛び込み、逆転のTDをあげた。 TDプレーはリプレーで判定が確認され、この他にも試合中に幾つかの簿妙な判定があったが、3Qにハセルベックのローブロック以外は妥当なフラッグだった。
 7対3、ピッツがリードして前半終了。

 守備の弱点を突いた前半と違い、後半になると両チームは本来の攻守を展開した。
 典型は、開始2プレー目に、スーパーボウルラッシングTD記録となった、RBパーカーの75ヤードの『パワー・ライト』だ。
  ピッツの主力ラインである左Gファニーカが得意のプルアウトでDEを倒し、パーカーが縦のスピードを生かして、ノータッチの独走をみせた。スティーラース14、シーホークス3。
 プレー成功の鍵は2点あった。
 一つはピッツ陣25ヤード、第2ダウン10ヤードとあって、シーホークスがパス対策のニッケル守備をとっていたこと。もう一つは、先発のマニュエルが前半に股関節を痛めて退場、経験のないFSプルイットが交代出場していたことだ。彼は2年前6巡指名でファルコンズへ入団、昨秋急遽移籍してきた3軍選手。この2点をピッツは見逃さなかった。
  
 第3Q0分22秒、まだ時間は十分にあった。ここから両チーム、レギュラーシーズン通りの展開で五分五分だった。
この試合初めてリーグMVPのRBアレクザンダーのラッシュを核にしたバランス攻撃でシーホークスが50ヤードFGに持ち込んだが、Kブラウンが失敗した。
 好位置を得たピッツは、ベティスのランを軸にウォードへのパスをミックスして敵陣7ヤードまで攻め込むが、ニッケルバックのハーンドンが擬態からロスリスのアウトパスをインターセプト、スーパーボウルノインターセプションリターン記録となる76ヤードを走った。追走したランドールエルがTDを防いだ。この好機に、シアトルQBハセルベックがSSパラマールの偏向した配置をつき、この日の悪役、WRスティーブンスに16ヤードパスを通し初TD、10対14と逆転可能なまでに得点差をつめた。さらに、交代WRイングラムへの2つのミドルパスでシーホークスが13プレーで71ヤード・ドライブを見せたが、DTハンプトンのサックを浴び、敵陣27ヤードのサードダウン・18ヤードに追い込まれてハセルベックの集中力が切れた。ピッツCBテイラーにインターセプトされた。

 3Q序盤のパーカー独走とともに、今40回の記念プレーとなったのが、直後の攻撃でピッツが見せたリヴァース・パス(正確にはゼロ・ストロング・Zショートフェイク・トス39Xリヴァース・パス)だった。ワイゼンハント攻撃コーディネーターは、ターンオーバーで動揺する守備への定番、トリックプレーしかもピッツの名物となった感のあるWRランドールエルのプレーをここで選択、それがみごとに的中した。ロスリスから左へ走るパーカーへトス、右に走りながらハンドオフでボールを得た元インディアナ大学QBのFLは、FSプルイット(前述)を振り切って右奥に走ったSEウォードに43ヤードのTDパスを通した。
 このプレーの2ダウン前に、同じ体型からFLへのスピードスクリーンを投げ7ヤード前進していたのが伏線になっていたようだ。4Q5分、スティーラース21、シーホークス10。
 この後の約9分間は、ベティスのボールコントロール・ラッシングと再びブリッツを多用したスティラー守備が試合の主役となった。ボウガス・ブリッツから定評のありゾーンブリッツへ、4Qのハセルベックの成功率は再び46%と急降下した。6分36秒残り、ピッツ陣48ヤード、3ダウン・8ヤードで、CBタウンゼンドがディレード・ブリッツでハセルベックをサックしたプレーがその象徴となった。
 結局、獲得距離はピッツ339ヤード、シアトル396ヤード。攻撃時間もピッツ26分58秒と、記録的には劣勢だったピッツが、要所での攻守で、的確な戦術を、気力、集中力、強い勝利への意欲で発揮した。
 シアトルは逆に要所での攻撃ミス(落球、反則)で、記録を結果に結びつけられなかった。しかし、フットボールでの失敗は精神的または肉体的な強圧が生み出すもの。ピッツ守備をほめるべきだ。2回のFG失敗は距離に無理があった。

 スティーラースの周辺には愛情が溢れていた。NFLを育ててきた名門オーナーのルーニー氏、熱い指導で在籍最長ながらスーパーに勝てなかったカウワーヘッドコーチ、スティーラースのパワーランを象徴してファイナルゲームを迎えたRBベティス、 まるで祖父、父親、兄を思わせる濃い血のつながりを感じた。
 前半の不振から復活、最低の6番シードでプレーオフに滑り込み、敵地での3試合を倒して、ダラス、サンフランシスコと並ぶスーパーボウル最多5勝目を記録した。
 5回捕球で123ヤード、1TDを獲得したWRハインズ・ウォードがMVPとなったが、アジア人(韓国・米国の混血)初の受賞と米国メディアは騒いだ。
 QBロスリスバーガーは21回投げ9成功 、123ヤード、0TD、2インターセプトに終わり、パッサーレーティングは22・6と勝利QBとして史上最低の記録に終わったが、史上最も若い(23歳340日)スーパーボウル勝利QBとなった。
 私のMVPは、7回25ヤード、1TDだけにとどまらず、4Qには2FDを走って獲得、チームに活気を吹き込んだ、ロスリスバーガーである。まだ若造だが、父や兄に対する愛情なら負けない。去年、パス成績は良いが勝負弱さを酷評された彼が、1年で勝てるQBに成長した。パッツのブレイディを追う存在になるだろう。

 今季は波乱に富んだシーズンだった。ニューオルリンズを襲った台風に始まり、コルツの連勝、そして最後に勝ち残ったのは伝統を愛すきわめて人間くさい男の集団スティーラースだった。来年度はどんなチームが主役に飛び出してくるのだろう。

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