いきなりの終幕
第38回スーパーボウル
   私にとっては、いきなりの終幕だった。試合は延長にもつれ込んでくれる、そう信じていた。ヴィナティエリの41ヤードのキックが理想的な弧を描いて、ゴールポストの真ん中を通った時に、頭に残したエネルギーがすとんと抜け、大歓声が耳に飛び込んできた。・・・・・・。終了4秒前。2年目と同じ幕切れ。これが、このゲームの落としどころだった。
  記憶を逆回転させて浮かべたシーンで、このゲームが史上稀なエキサイティングな展開だったと確認してもう一度銀吹雪舞うフィールドに目をやった。遠目にも、トロフィをつかんだブレイディの笑顔がはっきりと判った。今絶頂期にいるNFLだからこそ実現できる、最高の試合内容。ヒューストンから全世界に打ち上げたのは、モノトーンの真剣勝負でなく、極彩色のスポーツエンタテインメントだった。
もちろん完璧でない、だからこそ思い入れが残り、心を揺さぶる。それなのに、私は、いつも高望みしすぎる。
 
 

 2004年2月1日(日)午後5時25分、米国テキサス州ヒューストンのリライアントスタジアムに71525人の観客を集めて、キックオフされた第38回スーパーボウルは、AFC優勝のニューイングランド・ペイトリオッツ(東地区)がNFC優勝のカロライナ・パンサーズ(南地区)を、デッドヒートの末に、32対29で下し、2年ぶり2度目のリーグ優勝を果たした。MVPには、ペイトリオッツQBトム・ブレイディ(26歳)が史上最年少で2度目の受賞を果した。

  米国北部を覆った寒波が南部まで影響したのか、スーパーボウルウィークは寒気の曇天が続いていたが、当日は朝から晴れ上がった。ダウンタウンから車で約20分、広大な敷地に旧アストロドームと新本拠チームのテキサンズ・ドームに挟まれる形で巨大なボックス型のリライアントスタジアムがある。7階にある放送ブースからフィールドを見下ろすと、視覚的にはほぼ卓球台の大きさ、

 

選手の番号を見取りにくいが、俯瞰する角度が高く、チームの動きを見るには最適だった。守備型チームの対決に目をこらすには不足はない。

 守備型といっても両チームに微妙な差があった。リーグ最小失点のペイトリオッツはタフなイメージが強いが、本質的にはアライメントやポジショ二ングで攻撃の混乱を誘う戦術先導型、仕掛けるという意味合いからすれば攻撃型守備の典型といっても良い。一方のパンサーズはブリッツを多用するが、スピードある反応と確実なタックルを基本とする守備の王道、言えば耐える守備である。この2つの守備が、パンサーズのRBデーヴィズのラン攻撃、ペイトリオッツのQBブレイディのパス攻撃にいかに対抗していくのか、大方の興味はそこに絞られていた。
  私は、この同型異体の2チームの対戦が、スーパーボウルに新しい展開を生むのではないか、それを期待していた。

  攻撃の進歩はタレントの向上が前提だが、思考の前進で守備は進化できる。新鮮な守備対決はその究極である五分、つまり同点の展開でスーパーボウル史上初の延長にもつれ込む、いやもつれ込めと強く期待していた。ハードヒット、インチを争う消耗戦、ロースコアが主役となるはずだった。  しかし、眼下で展開されたのは、フットボールのあらゆる魅力を盛り込んだ波乱に富んだ劇的なフィールドストーリーだった。
  最初は、期待以上だった。スーパーボウル史上最長約27分間得点なしの、がちんこの守備戦が続いた。前半残り5分になり、パンサーズ25ヤードでLBヴラベルがこの試合初のファンブルフォースして、ペイトリッツに流れが向いた。第3ダウン・ロングでの定番、フロントにラインマン2人、ラインバッカー2人を起用する42体型からRDEに位置したヴラベルのスピードが生きた。意表をついたブレイディのスクランブルで厳しかったパンサーズのレッドゾーン守備を
  侵食して、WRブランチへの5ヤードパスで初TDに結びつけた。
 ここから局面は、急展開した。1分後にパンサーズがQBデロウムからWRスミスへの5ヤードパスで同点に追いつく、その1分後にブレイディからWRギヴンズへ5ヤードパスで再びリードしたが、その20秒後にパンサーズはKケイシーの50ヤードFGで追い上げる。わずか3分5秒の間に合計24点が入った。 この伯仲の展開は第4Q に再び爆発した。RBスミスの2ヤードランで21対10とペイトリオッツが離すと、パンサーズがRBフォスターの33ヤードラン(2点トライ失敗)で急迫、さらにデロウムからWRムハマドへの85ヤード(2点トライ失敗)で22対21とついに逆転した。試合終了2分51秒前に、ペイトリオッツがブレイディからTEヴラベルへの1ヤードパス(2点トライ成功)で29対22と再逆転すると、終了1分8秒前に、パンサーズはデロウムからWRプロウルへの12ヤードパスで再び同点に追いついた。ここで、耐えるパンサーズの真骨頂を見
 

て、私は延長第5Q 突入を確信した。しかし、それは甘い判断だった。



  記者会見の対応でも2年間の成長に驚ろかされたが、QBトム・ブレイディは間違いなくNFLトップ級のQBとなった。冷静な態度、すばやい判断、すばやいリリース、的確なコントロールに、米国マスコミは早くもモンタナ2世の異名をつけた。速く正確なショートパスを中心に、48回で32成功、3TD。1インターセプトはボールの5ヤード周辺にレシーヴァーのいない不可解なパスでレシーヴァーのミスの可能性が高い。 表情を変えないブレイディと違って、感情が表情に出るのは、パンサーズのジェイク・デロウム(28歳)。どこかぎこちない動作だが、決定的な場面での集中力は出色だった。シーズン中に30ヤード以上の得点を許していないペイトリオッツ相手に39、33、85ヤードのTDパスを

  通した。遅咲きながら、04年に一皮むければプロボウルクラスにはなる。2年前のブレイディの評価は、ほぼ正しい。



  第1、 第3Qは守備が主役、第2、第4Qは攻撃と一見不思議な感じに大別された試合内容となったが、前試合あるいは前半を偵察・分析して対応する守備、守備を見て戦術を選択する現場対応が可能な攻撃の特徴を見れば、異常な状態とはいえない。多様な攻撃戦術が十分に準備されていた証明であろう。 ベルチック・ヘッドコーチ、ワイズ攻撃コーディネーター、ロメロ守備と並んだペイトリオッツ、フォックス、へニング、トゥーゴヴァックのパンサーズのコーチングスタッフは互いに敬意を払いあった一日であったろう。
 




 間接的に勝負を分けたのは守備とならんで注目したキッキングだった。
  前半の27分間を圧倒的に押されたパンサーズがファーストダウン零(反則によるFD1)ながら、無失点得点しかもフィールドポジションを前進させていたのは、Pサウワーブラムのパントと完璧だったFG対策(ブロック1)の結果だった。ペイトリオッツが前半最後のキックオフを、自然芝にもかかわらず、スクイーブキックして、結果3点を失ったのと好対照だった。だから、順調だったパンサーズのキックの唯一の失敗が敗戦に結びついたのも必然の結果なのかもしれない。
 試合終了1分8秒前、同点に追いついたパンサーズは、続くキックオフを痛恨のミスキックでアウトオブバウンズに出し、敵陣40ヤードの好位置をペイトリオッツに与えてしまった。3タイムアウトを

  残した相手に、この距離を与え、勝負は決まった。延長にもつれれば勝者は変わったかもしれない。 息の詰まる守備戦、爆発的攻撃、そして逆転また逆転。スーパーボウルは年々濃厚になる。
  ☆
  公平な競争、パリティの世界が徹底したNFLでは、明日の勝者を今日予測することは難しい。絶対的な王者は去り、勝負に負けない、相対的な強者が残る世界だ。3年で2回優勝したペイトリオッツが卓越したチームつくり、FA制とサラリーキャップ制コントロールで頭一つ抜け出して、2004年シーズンへの先頭を走っているのは間違いない。(後藤完夫)